最新記事

スマートスピーカー

個人宅から音声3500件を収集 スマートスピーカーの実態が波紋

2021年11月1日(月)15時56分
青葉やまと

続いて音声で指示を出すことになるが、その内容はスマートスピーカー単体では解析することができない。そのため、録音またはストリーミングで各社のサーバ上に送信し、そこで内容を解析するしくみになっている。音声を送信しないオフライン対応にAppleが取り組んでいるが、現状では家庭外に録音ファイルが出てゆくしくみが最も一般的だ。

したがって、家庭内の音が望まない場面で送信されるケースは起こり得る。ウェイク・ワードと似たことばに反応し、スマホまたはスマートスピーカーの音声アシスタントが誤って起動した経験はないだろうか。このとき、前後数秒間の生活音が知らぬ間に録音・送信されている可能性がある。

過去にもあったプライバシー問題

今回の件についてAmazonは、プライバシー保護のためのアクションをユーザが取ることも可能だと説明している。同社広報はサン紙に対し、音声データを保存しない設定にできると説明し、また、連絡先をAlexaアプリに取り込む機能はあくまで任意のオプション機能であると述べている。他の企業においても、個人を特定できない形で音声を保存するなど、一定の配慮を行なっている。

しかし、Alexaとプライバシーに関しては、過去にも問題が持ち上がっていた。ブルームバーグは2019年4月、当時の音声データの取扱いに関する内情を報じた。ユーザがAlexaに話しかけた内容の一部は「世界で数千人」規模のAmazonスタッフが人間の耳で聞き取り、注釈を付記し、文字に書き起こしているのだという。発話内容を解析し、AIの精度を向上するためだ。類似の取り組みは同社に限らず、AIアシスタントを開発する他社でも一般的に行われている。

収集されたファイルのなかには、シャワーを浴びながらの調子外れの鼻歌や、助けを求める子供の叫び声、性的暴行と思しき音声など、第三者が安易に知るべきでない内容も含まれていたという。Amazonで音声レビュー担当を担当していた複数のスタッフが、不鮮明な発話や「面白い録音内容」などが発見された場合、社内チャットを通じて随時共有されていたと証言している。

自分の肉声が数千件もサーバに記録され、場合によっては人間に聞き取られていると想像するのは、決して気味の良い話ではない。今回の騒動は、AI開発とプライバシー保護のバランス感覚について改めて一石を投じることとなった。

Woman found Amazon folder with thousands of audio recordings from her home gadgets

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中