最新記事

最初の兆候は軽い喋りづらさ...平均余命1~3年とされても鉄人レースを完走した男性

Completing an Ironman with ALS

2021年11月17日(水)18時06分
カイル・ブラウン(米ユタ州在住のトライアスリート)
カイル・ブラウン

7月にALSと診断され、2カ月後にアイアンマン・レースを走り切った PATRICK MCDERMOTT/GETTY IMAGES FOR IRONMAN

<球麻痺型ALSと診断されても生活は変わらない。今も体をいい状態に保ちトレーニングを続けられる>

最初に気付いたのは2020年12月。ほんの少し話すことに問題が生じたが、私以外は誰も気付かなかった。疲労やストレスのせいかと思ったが、症状はさらに進んだ。看護師の妻と相談して21年3月半ば、医師の診察を受けた。

MRIなどの検査を受けたが、何も問題はないと言われた。私はアイアンマン・レースに向けたトレーニング中で、体調は極めて良好だった。

その後、何人もの医師に診てもらったが、診断はさまざまだった。そして7月半ば、ある専門医に「球麻痺型筋萎縮性側索硬化症(球麻痺型ALS)」だと告げられた。

私は本を読み、インターネットで検索してみた。それによると、球麻痺型ALS患者の平均余命は1~3年。だが平均がどうであれ、自分がどうなるかは分からない。人間は一人一人違うのだから。

妻と私の生活に大きな変化はない。私には息子が1人、妻には4人の子供がいる。今もフルタイムで好きな仕事をしているし、妻と一緒に高校のマウンテンバイクチームのコーチもやっている。

実はALSと診断された7月のあの日に、私たちは婚約した。帰りの車中で今の妻と20分ほどで結婚式の計画を立て、3週間後の8月7日、ある山の頂で式を挙げた。私たちは自転車で山を登り、50人ほどが伴走してくれた。さらに50~75人が車で集まった。

結婚式が終わり、みんなが下山した後、息子と妻と私の3人だけが残った。夕日が沈むなか、白いドレスに身を包んだ妻が総延長約20キロ、高低差1500メートルほどの坂道を自転車で爆走する姿を目にしたことは、一生の思い出だ。

病気の症状で泳ぎに支障が

結婚準備と同時にアイアンマン・レースのトレーニングをするのは大変だった。球麻痺型ALSは、喉、舌、唇、口の周りが最も影響を受ける。泳ぐときに呼吸が苦しくなるので、泳法を工夫し、安全のために妻と一緒に泳いだ。

ユタ州セントジョージで開催されるアイアンマン70.3世界選手権は1.2マイル(1.9キロ)のスイム、56マイル(90.1キロ)のバイク、13.1マイル(21.1キロ)のランで構成されており、まず出場資格を獲得しなければならない。

今回のゴールは奇妙な体験だった。いつもは走り抜けるのに、私はためらった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本郵政、アフラックを持ち分法適用会社に

ワールド

スロバキア首相銃撃で負傷、生命の危機脱する 「政治

ビジネス

バーナンキ氏、英中銀に金利予測公表に関する議論促す

ワールド

ウクライナ和平サミット、50カ国以上が参加表明=開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中