最新記事

EU

「メルケル後」のEU、仏マクロンが主導か 独走に不安も

2021年10月4日(月)11時04分
メルケル首相とマクロン大統領

ドイツの首相として16年にわたってEUのかじ取り役を担ってきたアンゲラ・メルケル氏が政界を去って行く。これによってフランスのマクロン大統領がEUで指導力を発揮し、「より独立した欧州」という自ら掲げる戦略を推進するチャンスが巡ってきた。写真はメルケル氏とマクロン氏。トゥールーズで2019年10月撮影(2021年 ロイター/Regis Duvignau)

ドイツの首相として16年にわたって欧州連合(EU)のかじ取り役を担ってきたアンゲラ・メルケル氏が政界を去って行く。これによってフランスのマクロン大統領がEUで指導力を発揮し、「より独立した欧州」という自ら掲げる戦略を推進するチャンスが巡ってきた。

ただEU内のどの立場の外交官も、それほど急速な変化は起きないと話す。

「欧州の女王」と呼ばれたメルケル氏の下で策定された欧州戦略は、時折、構想の「明快さ」が欠けていた。この点、マクロン氏が明快な物言いをエネルギッシュに続け、EUもマクロン氏特有の言い回しをしばしば取り入れてきたのは事実だ。

それでも外交関係者は、第2次世界大戦後の欧州の政治体制が合意に基づき成立したという歴史を指摘。マクロン氏が直接的で相手をいらつかせるようなスタイルばかりか、欧州戦略の策定で「独走」したがる点から、同氏がメルケル氏の役回りを果たすのはなかなか難しいだろうとの見方が出ている。

EU創設時からのメンバー国の駐フランス外交官は「マクロン氏が1人で欧州を引っ張っていける状況にはない。彼は慎重になる必要があると自覚しなければならず、彼はフランスの政策に早速に応援団が集まると期待してはならない。メルケル氏は特別な立ち位置を持っており、全員の話に耳を傾け、全員の意見を尊重していた」と述べた。

マクロン氏を巡っては、オーストラリアが先頃フランスの潜水艦導入契約を破棄した際、欧州諸国からフランスを支持する声がすぐには出なかったとのエピソードもある。こうした「沈黙」からは、ロシアからの脅威に向けて欧州が独自の防衛力を整備し、米国への依存を減らすべきだとのマクロン氏の構想に対し、EU内部や加盟各国に根深い反対論があることがうかがえる。

マクロン氏自身は過去のフランス大統領に比べれば、東欧諸国により親密に接しようとしている。にもかかわらず、米国が加わる北大西洋条約機構(NATO)を同氏が「脳死状態」にあると切り捨て、ロシアとの対話促進の必要を提唱した際には、ロシアに対抗する信頼に足る防衛力を提供してくれるのは米国だけだと考えるバルト諸国や黒海沿岸諸国は、まさに衝撃に打ちのめされた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中