最新記事

中国

中国恒大・債務危機の着地点──背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題

2021年9月22日(水)23時26分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
恒大グループの社屋

債務危機にある中国恒大集団 Aly Song-REUTERS

中国恒大集団の債務危機が連鎖拡大するのではないかという不安が世界に広がっている。習近平が描いているであろう着地点を考察するとともに、中間層がなぜ不動産獲得にここまで狂奔するのか、社会背景を読み解く。

中間層が不動産購入に狂奔する理由「その1」:入学時に要求される不動産証明書

江沢民時代からリーマンショック直後あたりまでは、党幹部などを含む富裕層が投機的に不動産を購入する傾向が強く、不動産価格の高騰を煽ってきた。中間層が増えるにしたがってディベロッパーは「今買わないと来年にはもうこの値段では買えませんよ」と消費者心理を煽り、不動産購入層は中間層へとシフトしていった。

その最大の原因が優良な公立小学校に入学するときさえ「不動産所持証明書」が要求されるという事実を知っている人は少ないだろう。

2014年まで中国では義務教育である小学校も中学校(初等中学=初中)も入学試験があり、優良な小学校に入るためには学校側に賄賂を渡す習慣が常識化していた。学校側は心得たもので、多少入試成績が悪くても賄賂が多ければ手心を加え、公立だというのに肥え太っていった。

金を集めるためには良い教師がいなければならない。

教師の一本釣りも流行り、一流の小学校に入れない者は「一流の塾」に法外な授業料を払って、14億人が「高学歴」へと突進していったのである。

試験があるために賄賂が動くという「腐敗構造」が義務教育である公立小学校にさえ存在することに対して、反腐敗運動に出ていた習近平は「義務教育入学時の試験を撤廃せよ」という通達を2014年に発布し、住んでいる場所によって入学する小学校や中学を決める「学区域制」にした。

ところが、上に政策あれば下に対策あり。

ならば、入試は免除するが、その代わりに入学審査は「不動産保有の有無によってランク付けしていく」という、信じがたい手に出始めたのだ。

たとえば2021年における<上海市嘉定区義務教育入学生募集実施意見>をご覧いただければわかるように、2014年9月1日から2015年8月31日までに生まれた満6歳の学齢期児童から、「不動産証明」を提出した者を優先的に入学させるというランク付けによって選抜することになったのである。

これは各地区によって異なるが、中国は都市を第一線都市(大都会)、第二線都市、第三線都市......とランク付けしており、第一線あるいは第二線くらいまでは、こういった状況にあると考えていいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米イーベイ、第2四半期売上高見通しが予想下回る 主

ビジネス

米連邦通信委、ファーウェイなどの無線機器認証関与を

ワールド

コロンビア、イスラエルと国交断絶 大統領はガザ攻撃

ワールド

米共和党の保守強硬派議員、共和下院議長解任動議の投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中