最新記事

軍事

「新・日英同盟」の始まりを告げる英空母「クイーン・エリザベス」来航が残した宿題

2021年9月21日(火)18時05分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表、大阪大学大学院招聘教授)


実験のための航海

まず、英国にとって空母の運用は2014年、軽空母「イラストリアス」が退役して以来のことであり、英国が6万5000トンという米国の空母に匹敵する大型の空母を実戦運用するのは初めてである。まして、その大型空母を英国の新戦略「グローバル・ブリテン」のもと、インド太平洋に進出させることも初めてであり、今回の航海は英国にとって多くの初体験を伴っている。

一口に空母を派遣すると言っても、空母の展開には防空や対潜水艦任務を専門とする随伴艦を含めた空母打撃群を編成しなくてはならない。今回の「クイーン・エリザベス」の航海には潜水艦を含めて10隻の艦艇が参加し、移動距離は4万8000キロ、3700人の乗組員が作戦に従事している。

そのような大規模の部隊が地球の裏側に展開するわけだから、当然ながら相当のコストとともに、航海中に時折、港に立ち寄り、乗組員の休養や艦艇の整備や修理、燃料や弾薬、食料の補給などを受ける必要があり、そのための寄港地を確保しなくてはならない。

ところが、世界中に基地を持つ米軍ならともかく、英国のインド太平洋での軍事的拠点は極めて限られており、現在ではオマーンのドゥクム、インド洋のディエゴ・ガルシア、シンガポールやブルネイ、オーストラリアに小規模の支援施設がある程度である。そのため、インド太平洋に展開した英国の空母打撃群は膨大な量の支援を派遣先の同盟国や友好国から提供してもらう必要がある。

また、英国から遠く離れたアジア地域で軍事作戦を指揮するためには衛星を介した地球規模の指揮通信、情報のシステム(C4ISR)を構築しなければならず、これも当面は米国との連携が必要になるだろう。

つまり、現在の英国の空母打撃群の展開は初めから同盟国との連携を前提にしたものであり、この点が単独で七つの海を支配したかつての大英帝国の海軍とは大きく違う点である。

例えば、今回、日本に来航した「クイーン・エリザベス」が搭載していたF35B戦闘機は英国空軍のものが8機なのに対して、米国本土から派遣された米海兵隊のF35Bは10機搭載されている。つまり、英米の混合編成にすることによって、空母の航空戦力を維持しているのである。

相互交換性

実は、英国のもともとの計画では、「クイーン・エリザベス」には12機ずつ2個飛行隊、計24機の英国空軍のF35Bが配備される予定だった。ところが、予算上の問題やF35Bの生産の遅れから、配備が大幅に遅れ、今回のインド太平洋展開に間に合わなくなった。(英国防省によれば、F35Bは2023年までに42機調達され、そのうち、24機が「クイーン・エリザベス」に配備される予定だという)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド大手、4月も好成績 株式波乱でボラ活

ワールド

トランプ氏、銃団体の支持獲得 バイデン氏の規制撤廃

ビジネス

日経平均は小幅続落で寄り付く、ハイテク株安い

ワールド

コンゴでクーデター未遂、首謀者殺害・米国人含む50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中