最新記事

テロリスクは高まるか

タリバンの思想は農村では「当たり前」? カブール市民が震え上がる「恐怖政権」の正体

THE MYSTERY OF TALIBAN RULE

2021年8月31日(火)17時50分
貫洞欣寛(ジャーナリスト)

復古的なイスラム解釈。伝統的な農村の価値観。これらに基づくタリバン流の統治は、地方部の男性にとっては違和感が少なく、むしろ「それが当然」とすら思う人も珍しくない。アフガニスタンで長年にわたり支援活動を続けてきた故・中村哲医師が繰り返し、「タリバンは狂信的集団ではない。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感がない」と語ってきた理由は、ここにある。

だがタリバンが自らの価値観を都市部でも強要すれば、何が起きるか。カブールなどの大都市では、さまざまな少数民族やイスラム教シーア派をはじめとする少数宗派の信者が集まる。さらにキャリアを通じた自己実現と家庭生活の両立を求める女性や、留学や外国生活を経験し社会の近代化を目指す人も多い。

一方的な価値観の強制は、当然ながら反発を招く。服従させるための暴力が襲う。それが第1次タリバン政権時代に起きた悲劇であり、いまカブールの人々を包む恐怖心の源だ。

タリバンは「外国の占領軍と闘う解放軍」というナショナリズムの要素も帯びていた。誤爆の被害や文化的行き違いからのトラブルが相次ぐなか、アフガニスタンの多くの人は米軍を「解放軍」ではなく、「占領軍」と見なした。

アフガン人には、これまでイギリスやソ連といった列強の侵攻をはね返して敗退させたという、民族の枠を超えた独特のナショナリズムがある。国際政治の世界でアフガニスタンは「帝国の墓場」と呼ばれてきた。

日本はアフガニスタンで、奇妙な親近感を持たれてきた。現地で「日本は私たちと同じ年に独立を果たした兄弟国だ。発展した日本を尊敬している」と笑顔で声を掛けられた日本人は、私だけではない。アフガニスタンは確かに1919年に英軍に勝ち独立を果たしたが、日本はそうではない。しかし、アフガニスタンではなぜかそう広く信じられ、日本に親近感を感じると同時に自らの独立を誇りに思う気風がある。

「占領軍」が支えたアフガン政府は、かつての軍閥の集合体だ。相互対立や悪政などでタリバン躍進の原因をつくった軍閥が、新政府の座に就いても腐敗体質を維持し続けていた。

アフガン政府軍には、帳簿の上にしか存在しない多くの「幽霊兵士」がいた。タリバンとの戦闘を恐れて逃亡した兵員をそのままカウントしたり、最初から実在しない人員を書類上で偽造したりした各地のボスや役人たちが、アメリカなどから注ぎ込まれる資金を懐に入れていたのだ。こんな状況下でタリバンは、地方部を中心に再び支持を集めていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中