最新記事

惑星衝突

恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

2021年8月3日(火)17時45分
青葉やまと

イアット湖周辺の地下1.5キロから発見されたパターンはまさに、このリップルマークが化石となって保存されたものだった。異例なのはそのスケールで、波と波の間の距離である波長が平均600メートル、高さにあたる振幅が平均16メートルにも及ぶ、メガリップルマークだったのだ。科学ニュースサイトの『ネイチャー・ワールド・ニュース』によると教授ら研究チームは、確認されている限り地球上で最大のリップルマークだと述べている。

現場周辺は白亜紀末、水深60メートルの海底にあったと推定されている。津波の到達によって海底の堆積物が乱され、メガリップルマークとしてその痕跡を残すことになった。津波の特性上、深い水域で発生した波が水深の浅い領域に移行するにつれ、その高さを増してゆく。現地付近の比較的浅い水深により、巨大なリップルマークが形成されたようだ。

さらに、水深が過度に浅くないことで、保存にも有利に働いた。キンズランド教授は米スミソニアン誌に対し、「水深は非常に深く、そのため津波が収まったあとは、通常の高潮によって水底のものが乱されることはありませんでした」と説明している。60メートルという最適な水深が、巨大なリップルマークの化石を生み出したようだ。

波紋が指す方向には......

今回の発見は、現在すでに有力となっている「チクシュルーブ衝突説」をさらに裏付けるものとなる。同説はユカタン半島北部に現存するチクシュルーブ・クレーターを小惑星の衝突地点だとするもので、1980年代に最初に提唱されて以来、これを支持するさまざまな証拠が発見されてきた。

今回のメガリップルマークも、その波紋の方向が説の内容と一致している。現場のイアット湖はチクシュルーブ・クレーターからメキシコ湾を挟んで対岸に位置しており、波紋に垂直な線を延長すると、ちょうど同クレーターの方向を指す。

キンズランド教授は一連の経緯を研究論文にまとめ、学術誌『アース・アンド・プラネタリー・サイエンス・レターズ』上で発表している。エネルギー会社の地形調査の担当者が珍しい波紋を見過ごしていれば、今回の発見はなかったかもしれない。思いがけないきっかけから、6600万年前の一大イベントの化石が発見されることとなった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲

ワールド

米UCLAが調査へ、親イスラエル派の親パレスチナ派

ワールド

米FTC、エクソンのパイオニア買収を近く判断か=ア

ビジネス

インタビュー:為替介入でドル160円に「天井感」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中