最新記事

仮想通貨

ビットコインを法定通貨に採用した国...仮想通貨が国家経済と財政を救う?

Bitcoin Fantasyland

2021年6月23日(水)18時26分
デービッド・ジェラード(経済ジャーナリスト)

マラーズに言わせると、本物のドル紙幣が欲しいなら、まずは送られてきたテザーでビットコインを購入し、それを最寄りのビットコインATMに入れて米ドルの現金を引き出せばいい。だが現実問題として、あの国にはビットコインATMが2台しかない。仮想通貨モデル地区に指定された2つの村にあるだけだ。

エルサルバドルの経済は現金決済で回っている。成人の7割が銀行口座すら持っていない。わずか90日で、デジタル決済のインフラを構築できるのかは大いに疑問だ。

現状でインターネットを利用できるのは国民の45%。農村部に限れば10%前後だ(大統領は、ビットコイン業界の手を借りて衛星通信網を整備すると主張している)。

消費者にも商店にも決済アプリを無償配布すると政府は言うが、あいにくストライクのアプリは古いスマホだとうまく作動しない。ビットコインATMも自国では生産できないから、外国から調達する必要がある。

210629p26bi02.jpg

ビットコインに賭けるブケレ大統領(就任から2年目の記念式典で、今年6月1日) JOSE CABEZAS-REUTERS

独断専行の肝煎り政策

ブケレはこの計画を、事前に国内の誰にも明かしていなかった。国内メディアは慌てて外国通信社などの報道を翻訳し、伝えたのみ。有力紙ディアリオ・デ・オイの電子版は国内の専門家にコメントを求めたが、ビットコインが国民に有益だという証拠は誰一人示せなかった。

実を言えば、ブケレ政権の財政は破綻している。支持率が90%超で盤石に見えるのは、増税なしで政府支出を増やしてきたからにすぎない。それで膨らんだ財政赤字を埋めたくても、法定通貨は米ドルだから勝手に増刷できない。だからブケレは、出稼ぎ労働者の仕送りから米ドルを吸い上げようと考えた。

今のアメリカ政府はブケレのポピュリスト的な体質にも縁故主義にも不快感を示している。だから公的援助の支給先も、政府ではなく民間団体に変えた。金融市場もエルサルバドル政府を信用していないから、同国の国債は大幅に割り引かれている。

ブケレはビットコイン法採択の翌日にIMFから10億ドルの融資を獲得するための交渉に臨んだが、IMFも事前の記者会見で、この法律の趣旨に懸念を表明していた。

要するにブケレは、ビットコインを国内に流通させ、それを米ドルと等価だと言い張ることにより、アメリカにいる自国民の送ってくる米ドルを横取りして対外債務の返済に充てる算段らしい。

議会で法案が審議されていた間にも、ブケレはビットコイン推進派との公開ビデオ会議に参加し、自分の構想の詳細を語っていた。ビットコインと米ドルの交換比率の変動による差損を補塡するため、国営の開発銀行に1億5000万ドルの信託基金を設けるという。素敵な大盤振る舞いだが、この国の外貨準備高は25億ドルにすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 6

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中