最新記事

東京五輪

習近平が東京五輪を「熱烈支持」する本当の理由

THE GAMES MUST GO ON

2021年6月17日(木)15時25分
メリンダ・リウ(本誌北京支局長)

だが今後、アメリカをはじめとする同盟国の強烈な圧力にさらされれば分からない。米国務省のネッド・プライス報道官は4月、北京冬季五輪への参加について、「同盟国と協議したい」として、同盟国や友好国と足並みをそろえる意向を示した。

「なにがなんでも五輪を開催する」ことは、近年対立が目立ってきた日本と中国の国益が珍しく重なる課題だろう。

どちらも表向きの共通の敵は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)だ。日本では感染拡大が収まる気配がないし、中国はウイルスの起源だというかねてからの批判や、「武漢の研究所から流出した」という追及をかわそうと必死だ。

とりわけ習にとって、中国のイメージを悪化させる材料がこれ以上出てこないようにすることは重要だ。

なにしろ今年は、中国共産党の創立100周年という記念すべき年。厳密な記念日は7月1日だが、この特別な年が、幅広い領域における華々しい偉業の話題で持ち切りになることを中国指導部が願っているのは間違いない。「東京五輪で中国勢がメダルラッシュ」もその1つだ。

さらに来年秋には、5年に1度の中国共産党大会が開かれる。習は党総書記として3期目の選出が確実視されているが、国内の盛り上がりに支えられた選出でありたいと願うのは当然だろう。

国民のスポーツ熱をバネに

そこで目を付けたのが、近年の中国におけるスポーツ熱の高まりだ。

中国政府はこれまで、五輪で常に顕著な役割を果たしてきたわけではない。2008年の北京夏季五輪も、中国の国際舞台への「デビューイベント」だったという見方が一般的だ。しかし北京五輪は、大衆のスポーツや国際大会への関心を高めるとともに、愛国心を盛り上げる役割を果たした。

東京五輪は、2008年以降にアジアで開かれる初の夏季五輪だ。コロナ禍の前から、中国では過去に例のない大衆の関心と参加が期待されていた。

中国のスポーツ団体が五輪に向けたトレーニングや準備に直接関わったのは初めてだと中国オリンピック委員会(COC)の劉国永(リウ・クオヨン)副会長は語っている。

中国は、東京五輪で「全参加国中トップ3」に入るメダル数を獲得するという野心的な目標まで打ち出した。

中国の場合、この目標は冬季よりも夏季五輪のほうが達成しやすい。中国にとって冬季スポーツは比較的新しい分野で、ロシアやアメリカ、カナダといった伝統的な強豪国にはとても及びそうにないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ上昇、米利下げ期待で

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中