最新記事

中国

中国の「反外国制裁法」と問われる日本の覚悟

2021年6月12日(土)19時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

バイデンはまたG7が終わったら、習近平と大の仲良しであるプーチンに会う予定まで立てている。プーチンは「友好的でない国」から「アメリカを外す意思はない」とロシアの外務副大臣が言っているし、またウクライナ問題を抱えているので、絶対に(今のところは)習近平から離れる気は毛頭ない。

しかしそれでもG7が結束すれば中国には痛いし、ましてや韓国がアメリカ側になびけば、相当なダメージを受けるだろう。

問題は日本だ。

習近平の国賓来日を中止したとは言わない日本。

最大の貿易国が中国である日本。

そして習近平の顔色をうかがって、今国会ではウイグル人に対する「ジェノサイド」を糾弾するための、(外国で起きた深刻な人権侵害に制裁を科す)「日本版マグニツキー法」の制定をしないであろう日本。

この日本がG7の中でどのように振る舞うかが、中国にとっては非常に大きな問題なのである。それもあって、何としても東京オリンピック・パラリンピックの開催を中国は応援しているのである。そうすれば日本は絶対に中国に反抗してこない。

バイデンの対中強硬姿勢は、6月7日付けのコラム<バイデン対中制裁59社の驚くべき「からくり」:新規はわずか3社!>で述べた通りで、中国はそれほど恐れてはいない。

問題はその周辺諸国なのである。韓国や日本、そしてヨーロッパ諸国がどう動くか、さらにインドやオーストラリアがどう動くかを警戒している。

毛沢東までさかのぼる習近平の覚悟

全人代常務委員会法工委の担当者は説明の中で毛沢東が(1939年に)使った「人不犯我、我不犯人(あなたが私を侵犯しなければ、私はあなたを侵犯しない)」という言葉まで持ち出して、反外国制裁法の正当性を主張している。

この言葉を用いた歌が、建国当初の中国で歌われ、私は小学校で声を張り上げて毎日のように歌わされたものだ。

中国共産党建党100年に当たり、習近平の執念が、この毛沢東の言葉に込められているという印象を受けた。

それは『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史習近平父を破滅させた鄧小平への復讐』で述べたように、1962年に父・習仲勲が鄧小平の陰謀によって投獄・軟禁された以来の恨みと復讐に裏打ちされた覚悟なので、底知れず深い。この歴史を知らない限り、習近平の行動を正確に分析することは不可能だ。

中国は今、アメリカを追い抜くか否かの瀬戸際にあり、アメリカは今、中国に追い抜かれてなるものかという分岐点に立たされている。天下分け目のこの日は早晩、必ず訪れる。

今年7月1日には、建党100年記念日を迎える。

中国共産党と国運の勝負として、習近平は一歩も引かないだろう。

問われるのは、国家理念なき日本の決意と覚悟である。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中