最新記事

中国

「安心安全な五輪」より「安心安全な国民生活」を!

2021年6月5日(土)20時12分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

以下に、五輪延期を決定した時期と「Go Toトラベル」および「第1次~第3次緊急事態宣言」に注目した新規感染者数と新規死者数の推移に関する推移を示す。青の■は新規感染者数、赤の■は新規死者数である。

endo20210605171201.jpg
日本政府が発表しNHKがまとめているデータを基に筆者が作成

「赤い矢印」で示したのは2020年3月24日に「東京五輪延期を決定した日時」である。あの時は新規感染者数も新規死者数も、絶対数から言えば現在と比べて桁違いに少なかった。それでも増加傾向にあることから延期を決断したわけである。

案の定、増加し始めたので「2020年4月6日」に「第1次緊急事態宣言」が出された。それでもしばらくの間は増加傾向が続き(新規感染者数のピークは4月11日の720人もしくは4月18日の588人)、5月25日なって、ようやく緊急事態宣言が解除された。

ウイルスの宿主は人間で、人間が移動し接触機会が多くなれば当然のことながら感染が拡大する。だというのに何と政府は、わざわざ国民の税金を注ぎ込んで「さあ、動きなさい。動いたら奨励金を出しますよ」と言わんばかりに「Go To トラベル」政策などを推進したので、一気に感染者数が激増し、新たなフェーズへと突入した。それでも利権が絡んでいる一部議員の強力な抵抗により、なかなか「Go To トラベル」政策にストップを掛けないので、感染拡大は後戻りができないところまで発展してしまった。ようやくストップしたのは5カ月後の2020年12月28日だ。

その悪影響は計り知れず、2021年1月7日に発布した第2次緊急事態宣言も、新規感染者数や新規死者数の絶対値が東京五輪延期決定の時のそれぞれ106.1倍(7642/72)および64倍(64/1)になっているにもかかわらず、3月21日には解除してしまった。当然のことながら、まだdecay(減衰)していないのだから、また増える。

今年4月25日から第3次緊急事態宣言が発せられたが、それは延期されたまま、いつ解除して良いのか確定はしていない。一応6月20日となっているが、その時にどういう数値であるならば解除できるのかに関する専門家集団の科学的シミュレーションに基づいた分析が欲しい。

「安心安全な東京五輪」より「安心安全な日常」を!

このような中で、東京五輪に何としても突き進んでいこうとする菅内閣は、日本国民の命など「政治の道具」としか見ていないという印象を国民に与える。

筆者の友人のご親族も、入院先のベッド数と医療従事者の許容限界を超えているという理由で(さらにはおそらく「高齢者なのでいずれ死ぬ」という「命の選択」も背後にあり)自宅療養を強要されてコロナ感染したまま亡くなられたばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇

ワールド

ゴア元副大統領や女優ミシェル・ヨー氏ら受賞、米大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中