最新記事

インド

インドの「スーパースプレッダーイベント」、虚偽のコロナ検査記録10万件発覚

2021年6月22日(火)18時30分
青葉やまと
インド・クンブメーラ

700万人を超える巡礼者が集結した4月のクンブメーラ REUTERS/Anushree Fadnavis

<スーパースプレッダーイベントとも呼ばれた4月の宗教行事で、偽のコロナ検査記録が10万件計上されていたことがこのほど発覚した>

ガンジス川にヒンズー教の巡礼者が集結するクンブメーラは、世界最大規模の宗教行事だ。ガンジス川流域の複数の候補地でそれぞれ12年ごとに開催されるこの大祭には、数千万人ともいわれる信徒たちが押し寄せる。ガンジス川に沐浴して罪を清めるほか、一部は過密なテント村で寝泊まりを続ける。

パンデミック最中の今年も、例年より規模は控えめになったとはいえ、本年の会場となった北部ウッタラカンド州ハリドワールには700万人を超える信徒たちが集結した。4月1日からの期間中、この聖なる祭典で身を清めれば、1度の沐浴で1000回分に匹敵する効果を得られるとの教えがある。

多くの人々は、信仰心こそがコロナから身を護るのだと信じた。1ヶ月間にわたる祭典が幕を開けると、マスクなしで河岸に密集して沐浴に勤しむ姿が日常風景となった。当初から「スーパースプレッダーイベント(大規模感染を引き起こすイベント)になるのでは」との懸念が示されていたものの、2月に感染者が減少傾向にあった慢心もあり、人々は楽観的であった。政府としてもヒンズー教指導者らの反発を懸念し、特段の規制を敷くことはなかった。

結果としてクンブメーラは、前後して行われた大規模な選挙運動と相まって、インド感染第2波の被害を明らかに拡大した。1日あたりの新規感染者数は最盛期で40万人を超え、世界でも例のない規模に達する。感染爆発による酸素不足と葬儀場不足により、世界でも有数の混乱を引き起こしたのは既報のとおりだ。

Hundreds test positive to coronavirus at 'superspreader' Kumbh Mela festival in India | ABC News


人々の信仰心が皮肉にも惨事を招いたこの沐浴祭に関してこのほど、新たなスキャンダルが発覚した。

見かねた最高裁が予防措置に動いたが......

大祭が迫るにつれて感染対策に動いたのは、政府ではなく司法機関であった。インドの司法府は、政治的要素が強い問題にも能動的に切り込んでゆく姿勢で知られる。

クンブメーラを控えてインド最高裁は、今年の開催地となるウッタラカンド州に対し、PCR検査および抗原検査を1日あたり合計5万件以上実施するよう命じた。人々が大挙して押し寄せることは阻止できずとも、せめて感染者を早期に隔離して拡散を防ごうというねらいだ。クンブメーラ期間中の累計はこの目標に届かなかったものの、記録上は40万件の検査が実施されたことになっている。

しかし、最高裁が意図したこの防護策は、虚偽の検査報告によって実質的に破綻することになる。発覚の契機になったのは、クンブメーラの祭典開始からほどなくして人々に届きはじめた奇妙なメッセージだ。コロナの検査を受けた覚えがない人々の携帯に、検査結果を告げる不審なSMS(ショートメッセージ)が届きはじめた。

はじめは何らかの迷惑メールの類いだとして無視する人々が多かったが、ある被害者が当局に被害を報告したことで問題が表面化。6月11日になると、現地のタイムズ・オブ・インディア紙などが大きく取り上げる展開となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中