最新記事

ワクチン

今こそ見直すべき「子供の予防接種」 防げる病気で子供を苦しませた親の後悔

Vaccine-Preventable Suffering

2021年5月20日(木)20時07分
高木由美子(本誌記者)、ケリー・ウィン、ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)

恐怖心から積極的にワクチンを避ける人ばかりではない。めったにかかる病気ではないからと、接種を先延ばしにする親も多い。さらに、おたふくかぜや水ぼうそうのような「比較的軽い」病気なら一度感染して免疫を付ければいいと考える親もいる。だが、この考え方は危険だ。

予防接種が普及して感染者が激減したおかげで「今の親や医師は実際に病気を目にする機会がない」と、欧州疾病予防管理センターのマーク・スプレンジャー元理事長は言う。

実際、感染症を過小評価するのは禁物だ。水ぼうそうやはしかで死亡する例は後を絶たず、日本ではおたふくかぜで毎年600~700人が難聴になる。

ワクチンが予防するのは本人の病気だけではない。接種を怠って感染が広がれば、周囲や地域全体にも危険を広げる。ソ連崩壊後のロシアでジフテリアが流行したり、70年代後半の日本で百日咳が急増するなど、根絶に近づいていた病気が接種率の低下を機に再び広がった例は多い。終息には再び膨大な経費と時間、人材が必要になる。

逆にきちんと予防接種を受けていれば、地域全体に恩恵をもたらすこともある。小児用肺炎球菌が00年に定期接種ワクチンに認定され、接種率が上がったアメリカでは、肺炎球菌による重症患者が5歳未満の子供で94%減っただけでなく、65歳以上の高齢者層でも65%減少した。

防げる感染症のリスクを予防接種でゼロにする──大きな代償を払うことに比べれば、簡単なことだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中