最新記事

マスク

マスク不要のCDC勧告、米でも異論噴出 ワクチン未接種でもマスク不要との誤解も

2021年5月25日(火)16時30分
青葉やまと
米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長

「すべての人のマスク義務を廃止するかのように思われていますが、そうではありません」米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長 Greg Nash/REUTERS

<ワクチン接種済みならマスク不要としたCDC勧告に、アメリカ国内で異論が相次いでいる>

米CDCは5月13日、ワクチンの完全な接種が完了した人々は公共の場でマスクを外しても問題ないとする勧告を示した。ソーシャルディスタンスの確保も不要としている。医療現場など特殊な状況を除き、広く一般社会に適用される見通しだ。

アメリカでの着用義務は現在、各州が判断している。感染拡大が深刻なニューヨーク州やカリフォルニア州など複数の州は、マスク着用をこれまで義務化してきた。CDCの方針を受けて両州は、早ければ来月から接種完了者の着用義務を解除する意向を示した。

テキサス州のアボット知事は、さらに思い切った緩和策を打ち出している。今後同州内の政府機関が市民に対して着用義務を課すことは、従来の方針から一転し、違法行為とみなされる。

感染リスク無視の一律撤廃が物議を醸す

CDCの勧告は、アメリカの人々を息苦しいマスクから開放するものだ。待望の新方針として一様に歓迎されるかと思いきや、意外にもこの方針に対し、常軌を逸しているとの批判が上がっている。

米公共放送局のNPRは、「歴史上前例がない状況において、CDCの動きはギャンブルだ」「だが、確実な賭けからは程遠い」と述べ、指針に批判的な立場を示した。

政治ニュースメディアの米ポリティコ誌も「公衆衛生の入門レベルのミス」だと述べ、新方針を厳しく批判している。同誌がとくに憂慮するシナリオは、職場での感染拡大だ。

CDC方針を受けた米アマゾンはすでに、ワクチン接種済みの倉庫労働者に対するマスク義務を撤廃した。大手スーパーチェーンのクローガー社も接種済みの来店客のマスクを免除するなど、マスク義務解除へのうねりが広がる。

しかし、現在アメリカでワクチン接種を完全に済ませた人の割合は、3人に1人をやや上回る程度だ。ワクチンの有効率が100%ではない状態で、周囲の人の3分の2がワクチン未接種の空間を、マスクなしで歩くことになる。こうした状況はすでに起きており、マスク未着用の来店客に恐怖を覚える店舗従業員も多いという。

労働者の権利団体である米国労働法プロジェクトは、精肉やスーパー、倉庫などの密な環境で「膨大な数の従業員が感染し、アウトブレイクが起き続けてきた」と指摘する。同団体はCDCと労働安全衛生局に対し、職場では引き続きマスクが必要であることを「直ちに」周知するよう求めている。職場が感染のホットスポットとなれば、従業員を通じて家庭へも感染が波及しかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中