最新記事

中東

なぜエルサレムの衝突が、ガザでの7年ぶりの大規模戦闘にエスカレートしたのか

2021年5月14日(金)10時45分
イスラエル軍による空爆を受けたガザ地区

東エルサレムで数週間にわたってパレスチナ人とイスラエル警察の暴力的な衝突が続き、パレスチナ自治区ガザにおいてパレスチナ武装組織とイスラエル軍による7年ぶりの大規模な戦闘を引き起こしている。写真はガザ地区で、イスラエル軍による空爆を受けた住宅に集まる人々(2021年 ロイター/Ibraheem Abu Mustafa)

東エルサレムで数週間にわたってパレスチナ人とイスラエル警察の暴力的な衝突が続き、パレスチナ自治区ガザにおいてパレスチナ武装組織とイスラエル軍による7年ぶりの大規模な戦闘を引き起こしている。

既に何十人もの死者が出ている衝突の核心にあるのは、ユダヤ教とイスラム教、キリスト教それぞれの聖地であるエルサレムを巡るイスラエルとパレスチナの長年にわたる緊張関係だ。

イスラエル、パレスチナ双方とも戦闘長期化に備えつつあるように見える。事態をエスカレートさせている幾つかの要素を以下に示した。

ラマダン以後の抗議行動と土地権利巡る判決

イスラム教徒のラマダン(断食月)が始まった4月中旬以降、東エルサレムで夜間にパレスチナ人とイスラエル警察の衝突が起きた。警察側がパレスチナ人の集会を阻止するため旧市街の入り口の1つ、ダマスカス門にバリケードを設置して封鎖したためだ。

パレスチナ人はバリケードを集会の自由に対する制限措置とみなし、警察は秩序維持のために配置についていると主張した。

さらに緊張を高めたのは、東エルサレムの住宅で暮らす複数のパレスチナ人家族の立ち退きを求めてユダヤ人が起こした訴訟を巡り、イスラエルの裁判所がユダヤ人の主張を支持する判決を下したことだった。

衝突は旧市街のアルアクサ・モスクがある地域にも拡大。アルアクサ・モスクは、イスラム教にとって3番目に神聖とされ、イスラエルとパレスチナの対立に最も影響を受けやすい場所にある。この地域や旧市街近辺の衝突により、ここ数日で数百人のパレスチナ人が負傷している。

越えてはならない一線

ガザを実効支配するイスラム組織ハマスや他の武装組織はイスラエルに対して、エルサレムで起きた暴力的な衝突は「レッドライン(越えてはならない一線)」であり、イスラエル警察がアルアクサ・モスク境内への侵入をやめない場合、ロケット弾を発射すると繰り返し警告していた。

そしてイスラエルが1967年の中東戦争で東エルサレムを奪回したことを記念する「エルサレム・デー」だった今月10日、ハマスと武装組織「イスラム聖戦(PIJ)」はエルサレムと周辺地域に向けてロケット弾攻撃を行った。

ハマス指導者のイスマイル・ハニヤ氏は、イスラエルがエルサレムとアルアクサで先に武力を行使し、ガザに飛び火させたと非難。「それがもたらす結果に責任がある」と強調した。

その数時間以内にはイスラエルの軍用機がガザの軍事目標に対する空爆を開始し、軍当局は人口密集地なので民間人の犠牲者が出ることは否定できないとくぎを刺した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中