最新記事

人権問題

ミャンマー国軍司令官も出席したASEAN臨時首脳会議 実質成果なく、今日も軍による暴力で死者

2021年4月25日(日)21時30分
大塚智彦

ASEANの会議に出席するミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官 Courtesy of Muchlis Jr/Indonesian Presidential Palace/ REUTERS

<クーデター発生以降、市民に対する銃撃などが行われているミャンマー。東南アジア各国が事態沈静化を図ろうとしたが──>

4月24日に東南アジア諸国連合(ASEAN)の事務局があるインドネシアの首都ジャカルタでASEANの臨時首脳会議が、加盟10カ国の首脳や外相による対面方式で開催された。議題は2月1日にクーデターで政権を奪取し、反対する市民への人権侵害、人命軽視の弾圧を続けるミャンマー問題だ。

会議にはミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官も「ミャンマーの首脳」として出席、協議に参加した。ミャンマー国内で続く軍による市民弾圧停止など、ASEANの求めにどう応えるかが大きな注目となった。

しかし会議後に発表された「議長声明」ではASEAN各国が共通に抱く懸念が明記されたものの、付随する「5項目合意」には身柄を拘束され訴追を受けているアウン・サン・スー・チー氏ら、クーデター以前の政権幹部の即時解放が盛り込まれないなど、「玉虫色」の合意となった。

特にミャンマー問題に深い憂慮を示し、市民への実弾射撃など強権鎮圧の即時停止を強く求めるシンガポールやマレーシア、インドネシアの求めに対して、ミン・アウン・フライン国軍司令官は協議の場で明確な返答を避けたとされている。

さらに公表された「合意」の中でも「暴力の即時停止」が明記されているものの、どこまで実効力を伴う「合意」となるのか疑問視する見方が強く、今回の臨時首脳会議も「暴力行為の停止」という最大の目的について確固たる言質をミャンマー側からとるには至らず、実質的な成果には乏しい結果となったといえるだろう。

会議参加までの紆余曲折

今回の首脳会議は、ミャンマーからミン・アウン・フライン国軍司令官が参加するのかどうかが最大の焦点だった。タイ外務省経由で参加意向が伝えられると、会議をおぜん立てしたインドネシアのレトノ・マルスディ外相やジョコ・ウィドド大統領は「とりあえず対面の会議に引っ張り出すことには成功した」と安堵したという。

ところがミャンマーの民主政権を担っていた与党「国民民主連盟(NLD)」の議員らが中心になって軍政に対抗する「国家統一政府(NUG)」を16日に樹立。その代表を「臨時首脳会議」に呼ぶようにとの要請が届いた。

これには「NUG」を非合法組織として閣僚全員に逮捕状を出すなど強く反発していた軍政が敏感に反応。「NUGが来るなら出席を見合わせる、あるいはオンラインでしか参加しない」と拒否反応を示したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア新国防相は「ソビエト的」、プーチン氏盟

ビジネス

インタビュー:日銀は6月に国債買い入れ減額か、利上

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中