最新記事

中国

ウイグル問題制裁対象で西側の本気度が試されるキーパーソン:その人は次期チャイナ・セブン候補者

2021年4月15日(木)20時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

陳全国とはどういう人か

陳全国は1955年、河南省駐馬店市平與県の貧困な農家に生まれた。そのためもあってか、文化大革命(文革)時代の唯一の安全地帯で食い扶持も得られる中国人民解放軍に、1973年、18歳で入隊し、1975年になって中国共産党員になっている。文革が終わると1977年(河南省の自動車部品工場工員)から2011年(河南省副書記・省長)まで、ひたすら河南省で仕事をしてきた。

2011年、胡錦涛政権時代にチベット(西蔵)自治区の書記に抜擢され、以来、チベット族を完膚なきまでに弾圧して、今ではチベット族の抵抗が見られなくなってしまったほどだ。

河南省の平與県はエイズで知られる街だ。

胡錦涛政権二期目に当たる2011年には、中共中央政治局常務委員(チャイナ・ナイン)の中に李克強がいた。胡錦涛直系の愛弟子で、当時は国務院副総理だった。

李克強は1998年(河南省副書記・省長代理)から2004年(河南省書記・河南省人民代表会議常務委員会主任)まで河南省で仕事をしていた。

河南省でエイズ問題が起きたのは1990年代初期で、まだ江沢民の腹心・李長春がトップにいた時期と一致する。貧富の格差が激しくなり、貧乏で生きていけなくなった人々が売血で生活費を稼ぎ、その結果エイズが流行り始めた。李長春はエイズを隠蔽し、エイズの巣窟となった河南省を逃げ出すために李克強の「出世」を提案して禍の河南省副書記に李克強を「栄転」させたわけだ。

一方、陳全国は1995年から97年まで武漢汽車(自動車)工業大学交渉管理学院経済学専攻で修士学位を取得し(学部は1978年から81年まで鄭州大学で経済学を学んだ)、1998年からは河南省の副省長を務めている。

つまり李克強が河南省に副書記として就任した時に、陳全国は少しだけランクが下になる副省長になっていたわけだ。李克強は省長代理。したがって陳全国は李克強の最も近い直属の部下として働いていたことになる。

エイズ問題を李長春から「譲り渡された」李克強としては、この難問に取り組むために、まさにエイズ村として名を馳せた平與県生まれの陳全国の助けを得ることになったわけだ。

かくして2009年に陳全国は河北省の副書記に上り詰め、2011年の胡錦涛政権時代に李克強の推薦もあり、チベット自治区の書記に昇進した。

その頃はチベットにおける抗議運動はまだ盛んで、少なからぬチベット人が天安門広場前で焼身自殺したことは有名だ。しかし2016年ころになると、陳全国による弾圧が功を奏し、ほとんどなくなってしまった。

そこで習近平は2016年に陳全国を新疆ウイグル自治区の書記に就任させたのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中