新型コロナという「人類史上の厄災」を、どう未来に伝えるべきか
Archiving the Pandemic
中心人物の1人でバッサー大学博士研究員のビビアン・チュオン(アジア系アメリカ人研究)によれば、これまで20人のボランティアが40人以上にズーム(Zoom)で話を聞いた。プロジェクトの狙いは、「数字やグラフに表れない体験を聞くこと」だ。
パンデミックの到来と共にアジア系は暴力の標的にされ、全米のチャイナタウンは深刻な不況に見舞われた。ニュースはこうした話題を連日のように取り上げるが、「暴力や不況がアジア系の人々が望む形で記憶されるとは限らない」と、チュオンは説明する。
日記の提供を遺書で約束
日常のエピソードを共有したがる人は多く、アーカイブには続々と資料が届く。インディアナ大学には、定期的に40〜50人が日記やSNSに投稿した文章を寄せている。
時間と共に増加したのが、ジョージ・フロイドやブリオナ・テイラーの殺害事件と、これに抗議するBLM運動についての投稿だ。コロナ以外の話題が増えたのは「人々がウイルスと生きることに慣れたせいだろう」と、シュワイアーは推測する。
ロサンゼルス公共図書館のアーカイブには2500件の資料提供があり、その大半が写真。休業を知らせる映画館の張り紙(「上映再開までしばしお待ちください」)もあれば、防護服姿の医療従事者のスナップもある。
インディアナ大学のプロジェクトには、元看護師がマスクをした郵便配達員の肖像を描いて寄せた。大学職員は昨年5月の「典型的な1日」をつづった日記を提供し、ハンガリー人留学生は「アメリカからの脱出」と題した手記を書いて、パンデミック初期の日々と慌ただしい帰国の顚末を伝えた。
歴史への貢献を非常に重く受け止める人もいる。シュワイアーによれば、ある女性は日記をアーカイブに提供する旨を遺言書に明記した。
A/P/A、ロサンゼルス公共図書館、インディアナ大学だけでなく各地のアーカイブが、この1年にまつわる記憶と思いを今も募集している。
「コロナ禍における生活は退屈に思えるかもしれない」と、シュワイアーは言う。「だがどんな暮らしの記憶にも、保存する価値がある」
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