最新記事

自殺

コロナ禍の2020年アメリカで自殺減少、その理由とは?

2021年4月15日(木)18時30分
松丸さとみ

自殺を考えた人は増加したが、それでも自殺者は減っていた...... PeopleImages-iStock

<ここ20年ほど自殺率が増加傾向にあった米国では、2020年には自殺した人の数が前年より減少したことが明らかになった。その理由とは......>

自殺者数は5.6%減少し、4万4834人に

2020年は世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、ソーシャル・ディスタンス(対人距離)の確保や外出規制など、これまでにない過ごし方を余儀なくされた人も少なくなかった。日本では、リーマンショック後の2009年以来11年ぶりに自殺者数が増加し、コロナが影響したのではないかと考えられている。

一方で、ここ20年ほど自殺率が増加傾向にあった米国では、2020年には自殺した人の数が前年より減少したことが明らかになった。死因順位では、最も多かった心疾患、がんに続き、新型コロナウイルスが新たに3位に浮上したこともあり、自殺は前年の10位から11位へと後退した。

米国疾病予防管理センター(CDC)が米国医師会雑誌(JAMA)に発表した暫定値によると、2020年の死者数そのものは、前年から17.7%増加した(年齢調整した数字は15.9%)。多くの死因で死者数が増えたが、自殺で亡くなった人の数は、2019年の4万7511人から2020年は4万4834人となり、5.6%の減少だった。

米国自殺防止財団(AFSP)によると、今回の暫定値では、自殺者の年齢や性別、人種、経済状況といった細かいデータがまだ出ておらず、コロナ禍でなぜ自殺者が減ったのかは、今のところはっきりした理由は不明だという。

AFSPはまた、自殺は一般的に、人からの孤立や、気分の落ち込み、不安、経済的なストレス、自殺の手段を入手できるか否かなどが複雑に絡み合った結果だと説明している。さらに、新型コロナの精神面への影響は、長期的であると考えられるため、自殺に対する影響も、今後1年以上たってから表れてくる可能性もあると警告している。

自殺を考えた人は増加、それでも自殺者が減った要因は

2020年はコロナ禍だったこともあり、米国での自殺者数は、増加すると懸念されていた。CDCが昨年6月に行った自己報告形式の調査で、精神面で苦しんでいる人や、自殺を考えた人が増えたことが示されたためだ。

同調査に回答した人のうち、うつ、不安、トラウマ、その他ストレス関連の障害など、精神面で何かしらの問題を抱えている人の割合は、40.9%に達した。2019年第2四半期の調査と比べると、不安症の症状を訴えた人は3倍、うつ病の症状を訴えた人は4倍に上った。

また、過去30日間に自殺を真剣に考えた人の割合は10.7%となり、2018年のおよそ倍となった。とりわけ、若年層では25.5%、家族などの介護をしている人では30.7%と割合が高かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中