最新記事

生命

生命は落雷から誕生した? 放電がDNAの必須要素を生成:米英研究

2021年3月29日(月)17時00分
青葉やまと

落雷が生命誕生に必須のリン化合物を生み出す要因になったのか......  Darren Creighton-iStock

<DNAや細胞膜などに欠かせないリンをもたらし、生命誕生に大きく寄与したのは、40億年前に頻発した落雷現象だったという。最新の米英共同研究が明らかにした...... >

驚くべき発見をもたらしたのは、地を穿つ一本の閃光だった。米中東部・シカゴ郊外のグレンエリンの街に暮らす一家は、2016年のある日、裏庭に轟音が響き渡るのを聞いた。地面には炎がくすぶり、小さな火事さながらだ。焼け焦げた土の合間からは、見たこともない奇妙な形状の岩が顔を覗かせている。隕石が墜ちたに違いないと思った一家は、地元のウィートン大学の地質学部にすぐさま連絡を取った。

報せを受けたのは地質学の教授だったが、当時学部生として教授の下で学んでいたベンジャミン・ヘス氏は、教授が実に冷静に判断を下したと振り返る。一般にはあまり知られていないが、隕石ならば大気との摩擦で数秒間は高温になるものの、地面に落下した時点で相当に冷たくなっているはずだ。教授はすぐに、隕石ではなく落雷が起きた可能性を疑った。

教授の直観は正しかった。現地を調査したところ、裂けた土のあいだから顔を覗かせている隕石のような物体は、フルグライトと呼ばれる落雷の「足跡」であることが判明した。

雷が地表に達すると、高熱によって砂が瞬時にガラス質の岩石に変化し、フルグライトあるいは雷管石と呼ばれる物質を形成することがある。落雷したポイントから地中に放電した跡がそのままフルグライトとして残るため、当該の地点を掘り起こせば、まるでガラスでできた木の根のような形状の物体が出現する。

以上のような発見の経緯は、米公共ラジオ局のNPRが詳報している。同局はまた、今回のフルグライトの希少性について論じている。フルグライト自体はさほど珍しいものではないが、通常は砂漠やビーチなど乾燥した土地での回収事例が大半を占める。それ以外の土壌にできたフルグライトは、地表部分が土に埋もれてしまうことから見つけるのが困難なのだ。民家の裏庭で回収されたこのサンプルは、基礎となった土壌が異なる点で貴重なものだと言えた。

41467_2021_.jpg

回収されたフルグライト


サンプルの分析は当時学部生だったヘス氏に託され、氏は英リーズ大学の研究者たちの協力を得て調査に取りかかった。問題のフルグライトを分析したところ、極小の奇妙な球形の物質が観察された。確認の結果、それはシュライバーサイトと呼ばれる希少な鉱石だと判明する。ことの重大さを知った瞬間、研究チームは色めき立った。ヘス氏の専門である地質学の域を越え、それは、40億年前の生命誕生の謎に迫る発見だったのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中