最新記事

ミャンマー

ネットでつながる、ミャンマーの抵抗運動は進化を遂げた

Can Myanmar’s Protesters Succeed?

2021年2月17日(水)16時30分
コートニー・ウィテキン(社会人類学者)

若い活動家によれば、こうした混乱は逆に楽観的な空気をもたらしている。旧世代の精神を受け継いだ上にネットという武器を持つ彼らにとって、現在の活動は「軍はけんかを売る世代を間違えた」という反抗のメッセージだ。

10年ほど前から多くの世界の有識者たちが、ミャンマーを民主化の成功例と見なしていた。しかし国内の、特に少数民族や宗教的少数派の研究者は、権力が軍部からアウンサンスーチー国家顧問の率いるNLDに移っても、ほとんど変わりはないと捉えていた。これまで抑圧が繰り返されてきたので、体制が変わると聞かされても、にわかには信じられなくなっていた。

クーデター前、ミャンマーの人々は2つの時代のことをよく話していた。不確かな政治的移行の時代と、民主主義が芽生える時代の話だ。

いま人々は「新時代」について語っている。NLDも15年の総選挙に勝利した後には、「新時代」の到来を約束した。しかしNLDが大勝した昨年の総選挙を軍が不正選挙と見なしたことが、ミャンマーを古い時代の光景に引き戻した。

SNSでは現在と過去が交錯している。07年の僧侶たちによる反政府デモや1988年の学生運動の様子が、古い写真やニュース映像から掘り起こされてアップされている。ジャーナリストのエイミンタンは、今の状況が「子供の頃に見た光景と全く同じ」というおばの言葉をツイッターで伝え、共感を集めた。

多くの市民が、長いこと忘れていた習慣を再び身に付けた。ドアの鍵を増やしたり、窓のカーテンをしっかり閉めたりするようになった。

鍋をたたくデモ参加者

2月1日、ヤンゴンの夜が更けてから現地の友人に電話した。「前にも経験しているから必要なことは分かっている」と彼女は言い、翌朝の予定を挙げた。飲料水を確保し、市場に食料を買い出しに行き、銀行で現金を下ろす──。軍が存在感を強めるなかで、通貨が使えなくなるとか、パニック買いが起きそうだといった噂が飛び交っている。今の世代の体験が崩壊し、気が付けば親や祖父母の時代に戻ったかのようだ。

クーデターが起きて2日目、抗議運動に参加した若者たちは鍋やフライパンをたたいて悪霊を退散させようと呼び掛けた。昔からある悪霊払いの方法だが、1988年の民主化運動では重要な戦略となった。このとき学生たちが始めた民主化運動には、何十万人もの市民が参加した。

2021年のヤンゴンでは、午後8時ちょうどに鍋が打ち鳴らされた。最初はまばらだった金属音が翌日には市外へと広がり、そこへ自動車のクラクションや抗議のシュプレヒコールが加わった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国がカナダの選挙に執拗に介入、情報機関が警告

ワールド

英国境管理システムに一時障害、技術的な問題で 空港

ワールド

台湾軍、新総統就任前後の中国の動きに備え

ビジネス

英アストラゼネカが新型コロナワクチン回収開始、需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中