最新記事

日本社会

飽食ニッポンで「飢餓」経験者が急増している

2021年1月28日(木)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

飢餓経験については、2010~14年実施の『第6回・世界価値観調査』でも尋ねている。この時点の数値と比較すると、日本の問題状況が露わになる。以下の図は、日本、韓国、中国、アメリカ、ドイツという主要国の時系列変化だ。

data210128-chart02.jpg

韓国、中国、ドイツでは飢餓率が下がっており、アメリカは微増というところだが、日本は増加幅が大きくなっている。5.1%から9.2%に伸び、日本では最近になって飢餓がじわじわと広がり、アメリカに迫る勢いになっている。

日本の飢餓経験率を年齢層別に見ると、若年層と高齢層で伸びが大きい。20代は7.1%から11.5%、70歳以上は5.2%から14.2%へと上がっている。20代で増えているのは、大学進学率の高まりにより単身学生が増えていること、若者の非正規化・賃金低下、またソロ化(未婚化)という事情が考えられる。高齢層は年金削減に加え、身寄りのない単身老人が増えていることなどが大きいだろう。

50代でも4.3%から8.3%に増えている。厚労省の『人口動態統計』によると、「食糧の不足」という原因での死者(餓死者)は50代で最も多い。人件費が高いという理由でリストラされても、年齢が再就職の壁になり、生活保護を受けようにも「まだ働けるはず」と申請が通るのは難しい。いろいろ苦難が降りかかるステージだ。飽食の国といわれる日本だが、目を凝らしてみると、ご飯にありつけない飢餓が広がっていることが分かる。

日本で拡大する格差

日本では、国民1人が茶碗1杯分の食べ物を毎日捨て、余剰の農作物はバンバン廃棄される。狭い島国の中で、こうした食品ロスと飢餓が同時並行で起きるのは不可思議だ。それだけ富の偏り(格差)が大きくなっている、ということだろう。

求められるのは需要と供給をしっかりと結びつけること、すなわち飢える人に対し有り余る食物を届けることだ。近年ではフードバンクの取り組みが盛んだが、区市町村に1つは官製のフードバンクを設けることを義務付けてはどうか。余剰の食べ物を備蓄し、困った人が利用できるようにするためだ。

あと一つは、困ったら助けをためらうことなく求められるようにする「SOSの出し方教育」の充実だ。近年、子どもの自殺防止策として、こうした「SOSの出し方教育」が重視されている(2018年、文科省通知)。「恥の文化」がある日本人は、困った時でも他人に助けを求めるのが苦手だ。福祉にしても「使う」ではなく「頼る」という言い回しがよくされるが、正確なのは前者だ。福祉は「頼る」ものではなく、困った時にはいつでも気軽に「使う」ものに他ならない。厚労省も本気になってきて「生活保護を積極的に利用してほしい」と呼び掛けているが、SOSを発するメンタルを子ども期から育むことが大切だ。

食品ロスと餓死、空き家と住居難民......。こうした奇妙な組み合わせが同居するというのは、社会の資源が適正に分配されてないためだ。資源を供給すること、その使用を遠慮なく申し出ること――。地に足がついた形でそれを後押しするのは国の役割だ。

<資料:『世界価値観調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中