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日本の小学生のスマホ所持率が、貧困層と富裕層の両方で高い理由

2021年1月13日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

小学校低学年のスマホ所持率はそれ程、高くないが…… ziggy_mars/iStock.

<低所得層には一人親世帯が多く、高所得層には共稼ぎ世帯が多いため、子どもに連絡手段として持たせていることも考えられる>

未来社会を言い表す言葉として「Society 5.0」がある。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のことだ(内閣府)。

生産・流通・販売、交通、健康・医療、金融、公共サービス等の幅広い産業構造の変革、人々の働き方やライフスタイルの変化を伴うのは必至で、スマホといった情報機器が生活に必須となる。現に、生産年齢層の国民のほぼ全員がスマホを所持している。

子どもに持たせる年齢も早まってきているが、小学生の所持率は高くない。専用のスマホを持たせている保護者の割合は、低学年では11.7%、高学年でも29.3%でしかない(国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』2016年度)。この段階では家庭環境とも強く関連していると見られるが、家庭の年収別のスマホ所持率を出すと興味深い傾向がわかる。<図1>は、低学年児童(1・2年生)のグラフだ。

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費用がかかるので家庭の年収と比例するかと思いきや、そうではない。年収200万円未満の層が19.3%と最も高く、600~700万円台の階層まで低下し、その後反転して上昇する「U字」型になっている。低学年のスマホ利用層は、貧困層と富裕層に割れているようだ。

経済的に余裕のない家庭では「スマホ育児」が多い、という話を聞いたことがある。子どもに構う時間的・精神的余裕がなく、スマホを持たせてひとまず大人しくさせる。富裕層の用途はこれとは違う。やや乱暴な言い方だが、子どもを手っ取り早く黙らせるために持たせるか、子どもの能力を伸ばすために持たせるか、という違いが階層間であるのかもしれない。

親が子どもと接する時間とも関連しているだろう。低所得層には一人親世帯などが多く、富裕層にはフルタイムの共稼ぎ世帯が多い。こういう家庭が、わが子との連絡手段としてスマホを持たせているとも考えられる。

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