最新記事

進化

「地球上で最も奇妙な動物」カモノハシの全ゲノムをマッピングすることに成功

2021年1月12日(火)18時10分
松岡由希子

紫外線を照射すると毛皮が青緑に光ることも、昨年判明した...... JohnCarnemolla-iStock

<さまざまな奇妙な生態を持つカモノハシ。世界で初めて、カモノハシの全ゲノムをマッピングすることに成功した...... >

豪州に生息するカモノハシは、「地球上で最も奇妙な動物」とも言われる。哺乳類だが卵を産み、乳首を持たずに腹部の乳腺から乳を分泌し、後ろ足から毒を分泌する。平たく大きなクチバシは、ゴムのように柔らかく、このクチバシで生き物に流れるわずかな電流を察知し、魚やエビを捉える。また、紫外線を照射すると毛皮が青緑に光ることも、昨年判明した。

デンマーク・コペンハーゲン大学、オーストリア・ウィーン大学、中国・浙江大学らの国際研究チームは、世界で初めて、カモノハシの全ゲノムをマッピングすることに成功し、2021年1月6日、学術雑誌「ネイチャー」で研究成果を発表した。

哺乳類と鳥類、爬虫類が混じり合っている

カモノハシは、哺乳類の中で唯一、爬虫類や鳥類のように卵を産む単孔類(カモノハシ目)に属する。単孔類は現生哺乳類で最も古くから存在したと考えられており、遺伝子的には、哺乳類と鳥類、爬虫類が混じり合っている。

その特徴のひとつが、カモノハシは卵を産み、乳腺を通して子どもに母乳を与える点だ。
ヒトは、進化の過程で、卵黄の形成に重要な「ビテロジェニン遺伝子」が3つとも失われている一方、ニワトリは、これらを3つすべて有している。

今回の研究成果により、カモノハシは、そのうち2つを約1億3000万年前に失ったものの、1つを現在も保持していることがわかった。つまり、残された1つの「ビテロジェニン遺伝子」のおかげで、卵を産んでいると考えられる。

ヒトを含め、他の哺乳類では、ビテロジェニン遺伝子が、母乳の主成分「カゼインタンパク質」の産生を担う「カゼイン遺伝子」に置き換えられている。今回の研究成果では、カモノハシも同様にカゼイン遺伝子を有しており、その母乳の成分はヒトやウシなど、他の哺乳類とよく似ていることも示された。

カモノハシは合わせて10本の性染色体を持つ

カモノハシの性染色体は、他の哺乳類のものとは相同性が低いのも特徴だ。ヒトをはじめとする哺乳類には、性を決定する遺伝子を含む性染色体が2本あり、XXであればメス、XYであればオスとなる。一方、カモノハシが属する単孔類は、X染色体5本、Y染色体5本、合わせて10本の性染色体を持つ。

今回のゲノムマッピングによると、カモノハシの性染色体の大部分で、ヒトよりもニワトリとの共通点が多いことがわかった。これは、哺乳類と鳥類との進化のつながりを示唆するものともいえる。

研究論文の責任著者でコペンハーゲン大学の張国捷教授は、「全ゲノムをマッピングすることにより、カモノハシのユニークな特徴がどのように出現したのかが解明できた。ヒトを含め、他の哺乳類がどのように進化してきたのかを解明する手がかりにもなるだろう」と一連の研究成果の意義を強調している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中