最新記事

寒波

北極の成層圏突然昇温により寒波襲来のおそれ......2018年の大寒波と同じ

2021年1月7日(木)19時10分
松岡由希子

2018年2月10日、成層圏極渦は2つに分裂。約2週間後、ヨーロッパで激しい寒波が発生した...... University of BRISTOL

<成層圏突然昇温で成層圏の極渦が2つに分裂すると、北西ヨーロッパからシベリアにかけて厳しい寒波が起こりやすいことがわかった。2018年の大寒波と同じ状態が現在起きている......>

成層圏突然昇温(SSW)とは、気温変化が穏やかな上空約10〜50キロの成層圏で突然気温が上昇する現象をいう。通常、冬の北極は日射が届かないため非常に低温となり、成層圏では「極渦」と呼ばれる強力な西風の気流の渦がこれらの冷たい空気を取り囲むが、極渦が弱まると、風が減速したり、反転し、冷たい空気が下降して、温度がわずか数日で摂氏50度も上昇する。

成層圏突然昇温が起こると、上空10キロまでの対流圏で「ジェット気流」が弱まる。これによって低気圧や高気圧が影響を受け、長期にわたって寒波が居座り、時として大雪をもたらす。たとえば、2018年2月に欧州を襲った「東からの獣」と呼ばれる大寒波は、成層圏突然昇温によるものであった。

RTX44NJD.JPG

2018年のニューヨーク REUTERS/Mike Segars

1月中旬以降、成層圏突然昇温による寒波の襲来が予想されている

英ブリストル大学、エクセター大学、バース大学の共同研究チームは、過去60年間に発生した成層圏突然昇温40件を分析し、成層圏で突然昇温が始まってから地表に向かって下降するまでの兆候を追跡する新たな手法を開発した。

この手法により、成層圏突然昇温が成層圏から地表にもたらす影響を追跡した結果、成層圏突然昇温で成層圏の極渦が2つに分裂すると、北西ヨーロッパからシベリアにかけて厳しい寒波が起こりやすいことがわかった。一連の研究成果は、2020年12月25日に学術雑誌「ジャーナル・オブ・ジオフィジカル・リサーチ」で発表されている。

英国では、2021年1月中旬以降、成層圏突然昇温による寒波の襲来が予想されている。イギリス気象庁は、1月5日、「成層圏の極渦の弱化に伴って北極成層圏で突然昇温が発生している」とし、「70%の確率で厳しい寒さとなる」との予想を発表した。

研究論文の筆頭著者でブリストル大学のリチャード・ホール博士も、この1〜2週間にわたって厳しい寒さとなり、降雪の可能性もあると予測。「確実に厳しい寒さとなるとは言い切れないが、成層圏突然昇温の約3分の2は地表の天候に重大な影響をもたらす。とりわけ今回の成層圏突然昇温は極渦が2つの小さな渦に分裂しており、最も危険なものだ」と指摘している。

2018年の大寒波 Beast from the East - Sky News at 10 - 1.3.2018

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中