最新記事

アメリカ社会

トランプが残したデマ地獄で「Qアノン」が共和党を乗っ取る日

QAnon Believers Have Lost Their Savior, But Their Power is Growing

2020年11月13日(金)18時40分
イワン・パーマー

熱烈なトランプ支持者とQアノンのサイン(10月30日、ミネソタ州ロチェスターの空港で)Carlos Barria-REUTERS

<「救世主」と仰ぐトランプが大統領でなくなれば、Qアノンも自然消滅すると思ったら大間違いだと専門家は言う。陰謀論は、共和党支持者の心に深く巣食っているからだ>

根拠なき陰謀論を唱える集団「QAnon(Qアノン)」の支持者たちは長年、ドナルド・トランプ米大統領が自分たちの主張の正しさを証明し、「サタン崇拝の小児性愛者たち」を成敗する日を待ち望んできた。

彼らは、トランプはいずれ来る「最後の審判」へ向けて「ディープステート(アメリカを動かす影の政府)」や(民主党の大物政治家やハリウッドセレブのような)児童性愛者たちを相手に戦っている」と主張する。そして「ザ・ストーム(嵐)」の襲来とともにトランプは世界を救い、悪人たちは報いを受けるという。

だがトランプが大統領選で民主党のジョー・バイデンに敗れた今、彼がこの「ザ・ストーム」を実行し悪魔を崇拝する小児性愛者たちに制裁を加える時間はあと2カ月しか残されてない。

それでもQアノンが主張する過激な陰謀論は、4年前の大統領選の際、ワシントン郊外のピザ店でヒラリー・クリントンが児童買春を行っているという情報が真っ赤なウソと暴かれても揺るがなかった(通称「ピザゲート事件」)。それが今更、トランプの任期終了と共に消えることはなさそうだ。

2017年にインターネット上の掲示板から始まったQアノン運動はその後、各種ソーシャルメディアを通じて拡散され、今や共和党のイデオロギーの一翼を担う存在となっている。彼らの主張は今後、バイデン政権に抵抗する運動に利用されることになるだろうと専門家たちは考えている。

事実に基づかない故の強さ

名誉毀損防止連盟過激主義センターの調査員ベガス・テノルドは、Qアノンの陰謀論がトランプを容易に「超えていく」だろうと指摘する。なぜなら、Qアノンは必要に応じて主張を変えることも厭わないからだ。トランプが大統領選に勝てば、彼と「ディープステート」の戦いがあと4年続くと主張し、バイデンが勝てば、それもまた「(ディープステートの)計画の一部だった」と主張する。「矛盾が多過ぎて、何が起ころうと関係なくなっている」

「Qアノンにとってトランプは拠り所だが、たとえトランプに否定されても、彼らは何か別にしがみつけるものを見つけるだろう」

Qアノンの主な主張は、匿名のネット掲示板「4chan」に「Q」という謎の人物が投稿した暗号のようなメッセージやコードが元になっている。自分は米政府の機密情報にアクセスする権限を持っているという「Q」の主張を人々は受け入れ、その主張を信じた。

だが「Q」は、投稿の中で一度も「サタン崇拝の小児性愛者である著名人」と言ったことはない。これはQアノンの支持者たちが独自に解釈した内容を、あちこちに拡散したものだ。

テノルドは、Qアノンはかくも適応能力が高いため、「最高司令官」のトランプがいなくなっても存在し続けることは可能だと指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明

ワールド

北朝鮮、「米が人権問題を政治利用」と非難

ワールド

ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中