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コロナ禍に揺れる旧ソ連圏 プーチン帝国の支配に衰えも

2020年11月10日(火)13時08分

1週間にわたって映像で広く伝えられた混乱や暴動、街頭での衝突は、新首相の任命に伴って終息したが、それまではロシア政府がキルギス国内にあるロシア空軍基地に厳戒態勢を命じ、対外援助を停止していた。ロシア治安当局の航空機が少なくとも1機、非公式にビシケクを訪れている。

キルギスは中国と国境を接しており、中国政府が進めるアジアと欧州にまたがる貿易回廊「一帯一路」計画の拠点の1つだが、ロシアにとっては、軍事的・地政学的に非常に重要な意味を持っている。

首都郊外にはロシアの主要空軍基地が置かれ、無人機(ドローン)やヘリコプター、爆撃機が配備されている。それ以外にもロシア政府は、天山山脈に抱かれた深い湖に海軍の試験施設を運営している。

さらにロシアは、キルギス国内に原子力潜水艦・水上艦艇と交信する海軍通信センター、世界中の地震・核兵器実験を追跡する地震監視ステーションを設けている。

2014年、キルギスは国内の米空軍基地を閉鎖した。米国が2001年以来アフガニスタンでの作戦で活用していたもので、アナリストのなかにはロシア政府からの圧力による措置との見方もある。

ロシアは中国との強い絆を誇っているが、その一方でキルギスにおいては中国政府と張り合っている。プーチン大統領と同様に、習近平国家主席も昨年ビシケクを訪問しており、中国はキルギス当局に対する主要な債権国としての立場をとっている。

ロシア政府・中国政府双方とも、新型コロナ禍に関してキルギスへの支援を約束している。

パンデミックがもたらした苦痛

貯蓄がなかったクダイベルディエフさん一家は、ロックダウンの時期を生き延びるために借金に頼らざるをえなかった。銀行から約630ドルを借りて食品や医薬品を購入し、慈善団体や隣人からの援助も受けた。政府からのわずかばかりの食糧支援もあり、5月まで何とか糊口をしのいだ。

選挙が近づくと、彼らはメケンチル(愛国)党を応援した。同党はパンデミックがもたらした経済的困窮による格差を重く見て、外資系企業によって採掘されている金などの天然資源による収入をもっと一般の人々に還元することを公約した。

クダイベルディエフさん以外にも、多くの人々が窮迫を味わっていた。世界食糧計画によれば、キルギス総人口の約4分の1は1日1.3ドル未満で生活している。同国の経済政策研究所が5月・6月に調査した貧困世帯の半数以上は、ロックダウン以降、家計が苦しくなったと回答している。

「呆れるほどの官僚の腐敗」を理由にメケンチル党を支持した有権者もいた。彼らは、新型コロナ対策に向けた外国からの支援・援助金を官僚が着服したものと考えた。投票日の1ヶ月前、税務当局は、新型コロナ対応を悪化させた怠慢や腐敗の告発があれば捜査を行うと発表した。

昨年、非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルが発表したキルギスの腐敗認識指数は100点満点中30点。サブサハラ・アフリカ諸国よりも腐敗が酷いことを意味している。

ロックダウンによって多くの若者が帰国してきたことも不満を煽った。国連開発計画・アジア開発銀行が8月に発表した報告書によれば、キルギスでは、ロシアで働く在外労働者からの送金がGDPの実に3分の1を占めている。

報告書によれば、ロックダウンによって若者を中心とする最大10万人の労働者が帰国し、農業に戻るか、都市部での仕事を探さざるをえなくなったという。制限が緩和された後でも、一部はそのまま国内に残っている可能性があるとされている。

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