最新記事

東南アジア

インドネシア、現職閣僚が汚職容疑で逮捕 「牙抜かれた」政府の汚職捜査機関KPKが久びさの快挙

2020年11月27日(金)13時15分
大塚智彦

ハワイ発ANA便から降りてきたエディ・プラボウォ海洋水産相が拘束されたようす KOMPASTV / YouTube

<権限縮小などで弱体化された捜査機関だが、社会不正をただす情熱は消えていなかった>

インドネシアの政府機関「国家汚職撲滅委員会(KPK)」は11月25日、現職閣僚のエディ・プラボウォ海洋水産相を汚職容疑で逮捕したことを明らかにした。

KPKによるとインドネシアが今年5月新たに解禁したロブスターの幼生を海外に輸出する政策をめぐり、エディ容疑者が担当大臣として輸出業者などから多額の賄賂を受け取っていた疑いがあるという。

エディ容疑者とともに訪米に同行していた妻や海洋水産省関係者、贈賄側の輸出業者なども逮捕や容疑者認定されており、かなり大掛かりな贈収賄事件に発展しそうだ。

インドネシア最強の捜査機関の一つとされてきたKPKだが、2019年以来国会による捜査権力の縮小や監視機関設置などでこのところ大きな事件摘発が減少。大物容疑者の逮捕もなく、「KPKはもはや死んだ」とさえ国民から言われていた。

それが今回は久々の現職閣僚の逮捕事件ということで地元マスコミも「KPKは死なず」という論調で今回の贈収賄事件を大きく伝えている。主要英字紙「ジャカルタ・ポスト」は「KPKが大物逮捕」との見出しを掲げて報道している。

米国から帰国した未明の空港で逮捕

KPKなどによると25日午前1時半前、ジャカルタ西郊のスカルノハッタ国際空港に米ハワイでの公務を終えて帰国したエディ容疑者をKPK捜査官が待ち構えて、同行していた国会議員の妻とともに身柄を拘束。所持品や銀行のATMカードをその場で押収するという「逮捕劇」だった。

25日午後、KPKの係官に付き添われて報道陣の前に現れたエディ容疑者は「お騒がせして本当に申し訳ない。大臣の職や党の役職などすべての役職を辞任する意向だ。今回の件に関してはすべて自分の責任である」とKPKの捜査には全面的に協力する姿勢を示した。

KPKによると、エディ容疑者に加えて国会議員である妻のほか、水産省関係者やロブスター輸出業者など計17人がこれまで逮捕され、なお複数の関係者を容疑者認定して行方を追っているという。

地元マスコミなどの報道ではエディ容疑者側にロブスター幼生輸出業者などから渡った賄賂は総額で98億ルピア(約7160万円)に上るものとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め

ワールド

プーチン氏「ハリコフ制圧は計画にない」、軍事作戦は

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入・

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中