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世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

THE TRUTH OF THE THREE GORGES DAM

2020年10月24日(土)11時40分
譚璐美(たん・ろみ、ノンフィクション作家)

先日、角教授らの属するダム工学会が公開した動画によれば、洪水時のダムの操作には3段階あり、第1段階の平常時(下流へ必要な水量だけ放流する)、第2段階の大雨時(あらかじめ確保したダムの洪水調節容量を用いて、流入量に応じて放流量を調節する)、第3段階の異常豪雨時(緊急放流とも呼ばれ、ダムの容量では処理し切れない際、上部のゲートを開けて洪水をそのまま通過させる)に分けられる。

三峡ダムのデータを見ると、平常時から大雨時、異常豪雨時へと段階を踏んで、操作方法を変化させていった様子がはっきり見て取れる。

まず6月上旬に、大雨が予想される梅雨期に備えて、あらかじめ貯水池の貯水量を減らす事前放流を行った。7月中旬に長江中下流で洪水が発生したことから、ダムでは洪水をため込んで増水を防いだ。

特に7月18日のピーク時には毎秒6万立方メートルの流入量を毎秒3万5000立方メートルまで減らす放流を行った。この際に水位は一時164メートルまで高まったが、その後流入量が低下した際に、再度事前放流を行って容量回復を行ったことにより、7月27日の次の洪水ピーク時にも放流量を低減させた。

それでも豪雨はやまず、最後のピークは8月19日に訪れた。ダム流入量で毎秒7万立方メートルを超えて記録的に増加し、11門の放水ゲートを全て開放して放流を行った。ただしその間も、流入量から毎秒2万立方メートルを差し引いた程度の放流を保ち続け、これにより貯水位は165メートルを超えたが、その後流入量が減少した。

「洪水ピーク時の複数回の事前放流がなければ、水位はもっと上昇していた危険性もあった。長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」と、角教授は太鼓判を押した。

※後編:「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」に続く

<2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より>

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