バイデン勝利にラティーノ票の不安 民主党がハートをつかみきれない訳
THE FIGHT FOR THE LATINO VOTE
バイデン陣営の熱心な運動員であるルーベン・ガイエゴ下院議員(アリゾナ州)に言わせると、若い世代を含めてラティーノがこれほど盛り上がっているのは前例がない。新型コロナウイルスのせいで予備選の終盤はまともな選挙運動ができなかったが、今は違うとガイエゴは思う。「アリゾナにもフロリダにも潤沢な資金が投入されている」
バイデン陣営は若者にアピールするため、プエルトリコ出身の人気ラッパー、バッド・バニーの曲を反トランプ広告に使った。タイトルは「しかし、もはやノー」。4年前にトランプを支持した層に向けて、民主党に戻ってこいと呼び掛けるメッセージだ。トランプ陣営もバッド・バニーの別の曲「ハロー、俺は誰?」でバイデンの地味さを皮肉ったが、これは空振り。バッド・バニーのファンは徹底したアンチ・トランプだ。
「彼の歌はLGBTQ(同性愛など性的少数者)の権利を擁護し、政治家の腐敗と戦うよう訴えている」と、バイデン陣営でスペイン語の広告を仕切っているジョエル・メイソネットは言う。「だからバイデンとの組み合わせは、意外に見えても実は合理的だ」
各種の世論調査によると、投票先未定の有権者は4年前より少ないようだが、バイデン陣営は中南米系の浮動票獲得に自信を見せる。バイデン陣営の事情通に言わせれば「選挙の常、そして中南米系の人たちの常として、みんな土壇場にならないと動かない」のだ。
7月末には、選挙のプロであるエイドリアン・サエンスが陣営に加わった。オバマの選挙にも協力し、フロリダやニューメキシコ、テキサスで多くの選挙を手掛けてきた人物で、「ラティーノ有権者の多様性も機微も理解している」とされる。
選挙戦が最終盤に差し掛かった今の時点で、ラティーノ票の掘り起こしに巨費を投じるのはなぜか。有権者のデータを少しでも多く入手したいからだ。そうすれば性別や出身国、年齢などで対象を絞り込み、ネットを通じて適切なメッセージを送り込める。
「これからだ」と、バイデン陣営のある幹部は言った。「映画の予告編も、2年前から流したりしない。封切りの直前が本当の勝負だ」
<2020年10月20日号掲載>