最新記事

2020米大統領選

意外とタフなバイデンの対中政策

WHAT JOE BIDEN HAS IN STORE FOR CHINA

2020年10月2日(金)16時40分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

トランプ選対チームの一員ではないが、崔とつながりがあり、対中政策のアドバイザー役を務める人物は、「(崔は)アメリカの大統領候補が、中国に対して弱腰と見られるわけにはいかないことを理解している」と言う。「それは大統領になってからも同じだ。崔はそのことを中国指導部に伝えているはずだ」

バイデンの「中国のカモにはならない」というスタンスは、意外な結果をもたらした可能性がある。一部の中国ウオッチャーによると、中国指導部の強硬派が勢いづいてきたというのだ。確かに中国はここ数カ月、香港で抑圧的政策を拡大し、東シナ海と南シナ海で軍事的プレゼンスを強化してきた。後者の目的は、西太平洋からアメリカを追い出すことだ。

中国共産党にパイプがあるアメリカの研究者によると、強硬派は概して、「アメリカの選挙の結果なんてどうでもいい」と言っているという。「トランプもバイデンも同じだ。リセットの余地を残しておく必要などない。バイデンがどう出るのか、様子を見る必要もない。こちらはこちらの都合で動けばいい」

競争と協調の難しいバランス

次期大統領に決まれば、バイデンが中国との難しい関係を舵取りしなくてはならないのは間違いない。貿易面では中国に厳しい態度を取りつつ(トランプがやったことだ)、環境や公衆衛生といった世界的な重要課題では協力する必要がある(トランプがやらなかったことだ)。どんなに頭をひねっても、中国側が歩調を合わせてくる保証はない。

バイデンの対中政策顧問は、オバマ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスなどのハト派から、独立系シンクタンク新米国安全保障センターのイーライ・ラトナーなどのタカ派まで幅広い。彼らがバイデン政権に加わったら何よりも力を入れなくてはいけないのは、米中関係の危険な負の連鎖を阻止することだ。

中国にしてみれば、11月にバイデンが勝利すれば少なくとも、思い付きで行動する一貫性のないアメリカ大統領を相手にする必要はなくなる。たとえ中国の思いどおりにならなくても、その行動は安定していて、予測しやすいはずだ。

一方でバイデンは、中国と競争しつつ、お互いの国益にかなうときは協力も可能だと考えている。米中関係の指導原理としては合理的だが、それは中国側が歩調を合わせたときに初めてうまくいくものだ。そうならなかった場合に備えて、第2案を用意しておく必要がある。

それは米中双方にとって痛みを伴う政策になるかもしれない。そう、現在のホワイトハウスの主が取っているものと同じように。

<本誌2020年9月29日号掲載>

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国テンセント、第1四半期は予想上回る6%増収 広

ワールド

ロシア大統領府人事、プーチン氏側近パトルシェフ氏を

ビジネス

米4月卸売物価、前月比+0.5%で予想以上に加速 

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 7

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中