最新記事

教育

批判的思考が低い日本の教師に、批判的思考を育む授業はできない

2020年9月2日(水)17時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

「TALIS 2018」では、「批判的思考が必要な課題を出すことがどれほどあるか」も尋ねている。この設問への回答も加味し、2次元の散布図を描いてみる。<図1>は、横軸に批判的思考を促す頻度、縦軸に批判的思考が必要な課題を出す頻度をとった座標上に、46の国・地域を配置したグラフだ。

data200902-chart02.jpg

目を疑うような配置だ。日本は両軸ともダントツの最下位で、他国の群れから大きく取り残されている。外国の人が見たら、「日本人が大人しい理由が分かった」と膝を打つだろう。

このショッキングな事実の要因は色々ある。そもそも日本では批判的思考を促す授業に馴染みがなく、教員も多忙で、そういう工夫をした授業を練る時間も取れない。<表1>を見ると、上位には南欧や南米の国があるが、これらの国では教員の仕事の大半は授業だ。日本のように、仕事の半分以上が雑務などというのは考えられない。

こういう勤務条件の改善とともに、教員の研修も重要となるが、研修は入職前と入職後に分かれる。紅林教授の調査結果と、ここでの国際データを踏まえると、前者の入職前、すなわち教員養成の問い直しが求められていると言える。

未来の教員を育てる教職課程だからといって、職務と直結した実践的なことばかりに重きを置き過ぎ、疑似的な学校空間に学生を閉じ込めてはいないか。多様な学びの機会を奪い、社会から目を逸らさせてはいないか。

組織としての学校を成り立たせるには、ある程度の従順さや協調性は不可欠だが、創造性や批判思考がない人が教壇に立つと、未来を担う子どもの教育にも影を落とす。

試みとして、教職課程の学生の読書時間の調査をしてみてはどうか。教職課程の学生の読書時間が、他の学生と比べて短いようなら一大事だ。まずは問題を可視化し、改革の提言に説得力を持たせることが必要だ。

<資料:OECD「TALIS 2018」

<関連記事:日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき
<関連記事:政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材

ビジネス

NY外為市場=円上昇、一時153円台 前日には介入

ワールド

ロシア抜きのウクライナ和平協議、「意味ない」=ロ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中