最新記事

BOOKS

死刑に賛成する弁護士もいる、終身刑ではいけない理由を彼らはこう言う

2020年8月5日(水)16時35分
印南敦史(作家、書評家)


人を殺したら、埋め合わせることはできません。殺人犯が罪を100%償うことは、どうやってもできないのです。しかも、そもそも刑法上では「償う」という概念は明示されていないのが現実です。ですから、「生きて償わせる」という主張は、被害者遺族にとって"キレイごと"でしかありません。
 一方で遺族は、取り返しのつかない現実を前に胸を掻きむしるような思いで苦しんでいます。娘さんを殺されたある母親は、「もし3億円を犯人に出せば娘の命が戻ってくるなら、いくらでも出します。私の命だってあげます」と涙ながらに話してくれたことがありました。(29~30ページより)

ところで死刑の是非を問う段になると、冤罪の可能性が引き合いに出されることがある。「刑事裁判には冤罪のおそれがある。冤罪で死刑になった場合には取り返しがつかないが、仮釈放のない終身刑であれば取り返しは可能である(受刑中に再審によって冤罪を是正できる)」という意見が述べられることがあるわけだ。

この考え方に反論しているのは山崎勇人弁護士だ。


冤罪のおそれは、「疑わしきは罰せず」という原則を徹底することによって回避すべき問題であり、「死刑」の存廃問題と結びつけて考えるのはこじつけです。「死刑」であろうと「仮釈放のない終身刑」であろうと、それが冤罪によるものであれば、いずれも取り返しがつかないことに変わりありません。(66ページより)

「冤罪が避けられない以上、死刑は廃止すべきだ」と主張する人もいるが、それを前提として「死刑」を「仮釈放のない終身刑」で代替させようとするなら、それは冤罪の防止に向けた努力を放棄したも同然というわけだ。

それどころか、「後で是正すればよい」との心理から、冤罪に対するチェックが疎かになってしまう危険すらあるという。しかしそれでは本末転倒もいいところだ。

しかも現実問題として、そもそも冤罪の可能性がない事件も決して少なくはない。例えば白昼堂々、街中で無差別に銃を乱射して多くの通行人を死亡させ、駆けつけた警察官にその場で現行犯逮捕されたというような事件がそれに当たる。

当然ながらそういう場合には、冤罪が生じる余地は皆無である。そういったケースもあるからこそ、死刑の是非は冤罪の問題とは別に議論されなければならないという主張だ。

もうひとつ。犯罪者は「死刑」を受けて終わりというのではなく、「生きて償うべき」「生きて反省させ、更生させるべき」という意見についても、本書によれば、机上の空論と呼ぶしかないようだ。

【関連記事】和歌山カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が綴る「冤罪」の可能性とその後の人生

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中