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貧困

生活保護かクルマか......シングルマザーが迫られる究極の選択

2020年7月22日(水)15時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

自動車の必須度が高い地域において、生活保護の条件としてクルマを手放すのを強いられるのはキツイ。生活困窮にありながらも、この条件が受け入れられず、保護を受けるのをためらう(諦める)世帯も多いのではないか。

実のところ、各県の自動車の必須度<表1>は、母子世帯の生活保護受給率と強く相関している。後者は、2015年7月時点の被保護世帯数を、同年10月時点の母子世帯数で割ったものだ。母子世帯とは、母親と未成年の子からなる世帯をいう。

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明瞭なマイナスの相関関係だ(<図1>)。貧困層の自動車保有量が多い県、つまりクルマの必須度が高い県ほど、母子世帯の生活保護受給率が低い傾向にある。

生活保護世帯率の要因としては、各県の福祉行政の方針もあるだろうが、自動車保有問題との関連もうかがわれる。上記の赤石氏の記事でも、そのようなことが言われている。

年収下位20%の層には、母子世帯が多く含まれるはずだ。保護の代償にクルマを取り上げられるとあっては、通勤や子どもの送迎もままならなくなる。それならと保護申請を断念し、困窮状態を耐え忍ぶ。地方では、「生活保護かクルマか」の選択を迫られるシングルマザーが少なからずいると推測される。子どもの貧困の持続とも関わることだ。

低所得世帯を対象とした調査で、この説の裏付けを取れたらいい。各自治体の行政がその気になれば、すぐにでもできるだろう。まずは母子世帯に限定してもいい。埋もれている貧困を掘り出すための第一歩だ。

しかしこういうデータを待たずとも、交通網に乏しいエリアでは、生活保護世帯であっても自動車の保有は認められるべきだ。移動という機能に特化したミニカー(マイクロカー)もあるので、生活が軌道に乗るまでの間、こうしたマシンの貸与を検討してもいい。

赤石氏の記事では、「データをさらに集めながら、生活保護の自動車保有の問題を正面からとりあげるべきではないだろうか」と述べている。ここで示した都道府県単位のデータが、その礎石になればと思う。

<資料:総務省『全国消費実態調査』
    厚労省『被保護者調査』

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