最新記事

厚生労働省

新型コロナウイルス患者急増で病床削減計画見直しか 日本の医療政策の矛盾露わに

2020年4月16日(木)14時46分

コロナ発生で再検討

ところが、新型コロナウイルスの発生により病床をめぐる事態は急変する。厚労省は3月4日付の医政局長通知で、3月末までとなっていた病床削減計画の提出期限の延期を認めた。

通達では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため政府がイベントなどの自粛を求めていることなどを理由に、地域医療構想における具体的対応方針の再検証等の期限について「改めて整理」するとしている。

すでにコロナ感染者は、感染症病床や結核病床だけでなく、一般病床を埋め始めている。コロナ対策病床の稼働率は14日現在、107%の稼働率(出所:一般社団法人 日本呼吸療法医学会 公益社団法人 日本臨床工学技士会)。

実際に国が緊急事態宣言を発表した7日以降、都内の東大病院や日大病院、東邦大学病院は、患者の病状に影響を与えない範囲で診療機能を一時的に縮小すると発表した。他の病院でも入院・外来診療を制限する動きが広がっている。

このため、削減計画をいったん停止せざるをえない状況が生まれたとみられる。

厚労省の期限延期の決定について、全国自治体病院協議会の小熊豊会長は3月18日の記者会見で、「今この騒ぎだから、柔軟にやっていただけるものと思っている」と、延期は当然との見解を示した。

厚労省医政局はロイターの取材に対し、「病床削減計画を全面的に取りやめるということではない」としつつ、「コロナ患者入院の状況からみて、再検討が必要かと思っている」とし、国の病床削減計画を見直す可能性を示唆した。

経営の壁

経済協力機構(OECD)は19年版の「Reviews of Public Health」でパンデミック発生となれば、予算も人口も減少していく日本で、その受け入れ余力や専門知識などの対応能力には課題があると指摘している。

一方、医療機関としては、感染症が発生していない平時から、常に感染症病床を一定数維持することは経営的に困難との声もある。

私立大学病院に長く勤務していた国立病院の医師は「基本的に、病床は常に95%以上埋まっていないと病院の経営は成り立たない。感染症対策に空き病床を備えることは理想かもしれないが、病床の数に伴い感染症に対応できる医師・看護師を同時に備えて登録する必要があり、感染症が発生していない時にそうした余剰の医師を維持することは非現実的」と述べた。

近年、増加傾向にある自然災害に伴う感染症リスクや、数年ごとに起こる世界的大流行など、感染症との新たな闘いを見据えなくてはならない中、病院の経営課題や国の医療費抑制といった問題とどう向き合っていくのか。難しい課題がまた一つ浮き彫りとなっている。

(グラフ作成:照井裕子 編集:石田仁志)

中川泉 宮崎亜巳

〔東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・日本・台湾・香港の「コロナ成績表」──感染爆発が起きていないのはなぜ?
・アメリカが期待した「クロロキン」、ブラジルで被験者死亡で臨床試験中止
・「社会的距離の確保、2022年まで必要な可能性」米ハーバード大学が指摘
・気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること


20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中