最新記事

ジャーナリズム

なぜフランスは「人質になったジャーナリスト」を英雄視し、日本は自己責任と切り捨てるのか

Passport Denial Is Social Death

2020年3月10日(火)16時20分
西村カリン(ジャーナリスト)

mag20200317yasuda1.jpg

空軍基地でフランソワ・オランド大統領に迎えられるエナン(右から2人目、2014年4月)

――安田はパスポート発給を外務省に拒否されている。

国が勝手に特定の国民のパスポートを発給しないのは、非常に深刻な問題だ。ジャーナリストに関する限り、その決定はその人の社会的死を意味する。本人の安全か国家の安全保障に明白な危険をもたらす事実がある時のみ、そうした措置の正当性がある。

――フランス人ジャーナリストが特定の国に行くのを政府が禁じることは?

想像できない。国民の反発も強いだろう。

――日本では、戦場に行くフリージャーナリストは「自己責任で」と言われる。フリーの人が自分の判断で戦場に行くのと、大手メディアから取材依頼を受けて行くのとどちらが正しいだろうか?

これは多くのフリーランサーが負担するリスクだ。私の場合、このリスクを取らなければ、戦争記者としては活動できなかっただろう。

最初の本格的な戦争取材は2003年のイラク戦争だった。アメリカのイラク侵攻をバグダッドから報道するため、私は取材依頼が来るまで待ったが、依頼が来たのは部数の少ないカトリック系週刊誌だった。

大手メディアはみんな同じことを言っていた。「現地に行ってから電話してください」。実際には、現地にほとんど大手メディアの記者はいなかった。

到着後間もなくラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)の特派員として働き始め、ルモンド紙、そしてルポワン誌でも記事を書いた。結局、私は戦場に行ってから、知名度の高い媒体のために働くようになった。

――人質になった記者に対するフランス政府の態度は?

フランス人は伝統的に人質への支持が非常に強く、ジャーナリストだとさらに強い。情報機関や外交官が最大限の努力をするのは確実だ。拘束された人の家族や同僚への支援も手厚い。

日本でも世論の支持があれば、政府がもっと動くようになると思われる。責任は人質になったジャーナリストではなく、テロリストにある。人質を非難すれば、部分的にテロリストを免罪することになる。

<2020年3月17日号掲載>

【参考記事】安田純平さん拘束から3年と、日本の不名誉
【参考記事】安田純平氏シリア拘束のもう一つの救出劇「ウイグルチャンネル」

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中