最新記事

アメリカ社会

人気の大統領だったのにオバマの命名運動が振るわない理由

THE PRESIDENTIAL NAMING GAME

2020年3月4日(水)18時10分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

レーガンとは対照的にオバマの名を冠した建物や道路はほとんどない SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

<レーガンやブッシュとは大違い――出身地ハワイにはオバマの名を冠した学校や通りがない>

建物や学校、通りに元大統領の名前を付けることは、在任時の国への奉仕に敬意と感謝を表明する手っ取り早い手段らしい。

例えば、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港や、首都ワシントン近郊にあるロナルド・レーガン・ナショナル空港。テキサス州ダラスとヒューストンでは、空港、高速道路、学校、公園と、至る所に2人のブッシュ元大統領の名前が付いている。

だが実際にはそう簡単にはいかないと、スタンリー・チャンは言う。

6年前、ハワイ州のホノルル市議会議員だったチャンは、オアフ島のサンディ・ビーチ・パークというボディーサーフィンの人気エリアにバラク・オバマの名前を付けようと提案した。このビーチはハワイ生まれの唯一の大統領オバマの少年時代の遊び場。大統領選挙に初めて挑戦した2008年の8月には、小休暇中にここで上半身裸の写真を撮影した。

だが、この命名キャンペーンに対する反応は最悪だった。地元住民から「歴史的・文化的配慮」に欠けると激しく非難されたと、チャンと共同提案者は3日後に提案を撤回した際の声明で述べている。

大統領退任から3年後の今も、ハワイにはオバマにちなんだ名前の学校や通りも、公園のベンチもない。オバマは2期8年務めた人気のある大統領だった。ギャラップの世論調査によれば、退任時の支持率は59%。この数字を上回るのは、レーガンとビル・クリントンだけだ。それを考えれば、オバマをたたえようとする運動がなかなか盛り上がらないのは不思議でさえある。

オバマが完全に無視されているわけではない。アメリカ全体では、その名を冠した学校は20校前後、道路も20本ある。オバマが移り住んだイリノイ州では、誕生日の8月4日を祝日にしている。

それでも、オバマの「レガシー」をたたえようとするリベラル派の組織的運動はない。カリフォルニア州サンノゼでは、かつてオバマの選挙運動にボランティアで参加したアレックス・シュアが、2年以上前からアルマデン大通りを第44代大統領にちなんだ名前に変更する住民投票の実施を市当局に働き掛けているが、反応は鈍い。

オバマ命名キャンペーンの問題の1つは、政治力が弱いことだ。「とても小さな草の根の運動だ」と、シュアは言う。「私たちは誰からも支援してもらったことがない」

政治的ブランド構築の手段

それと対照的なのが、レーガンを政治家からアメリカの偉人に変えるため、第40代大統領の名をあらゆる場所に付けようとする運動だ。本人の退任前から本格的に始動し、その後もずっと「小さな政府」を目指す団体・全米税制改革協議会(ATR)の大目標であり続けている。

ATRの「ロナルド・レーガン・レガシープロジェクト」の遠大な目標は、全米に3140ある郡の全てでレーガンにちなんだ名を何かに付けること。創設者グローバー・ノークイストのより控えめな目標は、少なくとも現代アメリカの指導者で最も名前を冠した場所が多いケネディとマーティン・ルーサー・キングに並ぶことだ(現時点では全米で約150カ所、ケネディとキングは800以上だという)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エクソン、第1四半期利益が予想下回る マージン低

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中