最新記事

BOOKS

性風俗で働く地方都市シングルマザーの意外な実態

2020年3月3日(火)16時15分
印南敦史(作家、書評家)

言うまでもなく、少子高齢化に伴う人口減少は、政治・経済・文化・テクノロジーなどあらゆる分野に影響を与える。しかし地方都市の場合、現実はさらにシビアなものになる。

人口減少によって企業の存続や自治体運営が困難になる可能性も大きく、だとすれば生活自体が成り立たなくなる可能性も大いにあるのではないか。また一方で、結婚・妊娠・出産・育児に関連するハラスメントも社会問題化している。

そうしたバックグラウンドを踏まえたうえで、本書では人口約80万人の政令指定都市(県庁所在地)であるS市を舞台に、そこで生きるシングルマザーの実態を明らかにしているのである。

例えば第一章で紹介されている辻彩さん(26歳)は、高校中退後にキャバクラで働き始めたものの、20歳のときに妊娠が発覚。相手は同じ店のボーイだったが、著しく経済力がなかったため、未婚で産み育てることを決意した。

無責任な言い方をすれば、ありそうな話である。しかし、だとしても、地方都市のキャバクラにはその場所ならではの深刻な問題があるようだ。人口減少と中心繁華街衰退のあおりを受け、もはや稼げる仕事ではなくなってきているということだ。

その結果、彩さんのようにデリヘルの仕事を始める人も少なくないのである。しかもその働き方も、一般的なイメージとは異なっている。


「これまでは昼間にアパレルの仕事も兼業していたんですが、今はデリヘル一本です。女性向けのリラクゼーションの仕事に興味があって、働きながら資格を取りたいと考えています。
 最初は勤めながら資格を取得していき、三〇歳頃には独立したい。そのためにはお金が必要なので、今働いて貯めておきたい。来年の春には、昼の仕事を再開したいと考えています。
 元々は昼の仕事が中心で、デリの仕事は週二回程度でした。デリ一本にしてから、先月の収入は四六万円でした。お店のホームページのアクセス数がよかった時期ですね。週五〜六回、一〇~一七時の出勤、稼いだお金は貯金しています。
 以前は夜の時間帯も出勤していたんですが、子どももいるし、自分の身体にも負担がかかるので、今は出ていません。(44ページより)

風俗で働くシングルマザーに対するイメージは、「夜間保育に子どもを預けて、夜の繁華街で働いているんだろう」というように偏りがちだ。

しかしそれは誤りで、実際は彩さんのように子どもを朝保育園に預け、10〜17時の間に働き、18時には子どもを保育園に迎えに行って帰宅するという女性のほうが多数派なのだそうだ。だとすれば、表面的な生活リズムに関しては一般の女性と変わりないことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中