最新記事

2020米大統領選

サンダースが推すアメリカ版「国民皆保険」は、社会主義どころか大きなコスト削減につながると新研究

Medicare for All Would Save $450 Billion Annually, New Study Shows

2020年2月19日(水)18時40分
ジェイソン・レモン

保守派からは過激な社会主義者と批判されるサンダースだが Jason Redmond – REUTERS

<保守派が忌み嫌う国民皆保険制度が実現すれば、いま保険に加入できていない多くのアメリカ人の命も救う>

最新の研究によれば、民主党の大統領候補バーニー・サンダースとエリザベス・ウォーレンが提案するアメリカ版「国民皆保険」(メディケア・フォー・オール)。数千万人の無保険者が満足に医者にかかれない命の格差を解消しようとする提案だが、皆保険は社会主義的で財政膨張と非効率を招く、とアメリカの主流派からはほとんど相手にされなかった。ところがそれが、逆に年間数千億ドルもの節約を可能にし、数万人の命を救うことになるという研究結果が発表された。

イェール大学とフロリダ大学、メリーランド大学の研究者が合同で行った分析によれば、アメリカの医療保険制度が、政府運営による国民皆保険に移行すると、年に推定約4500億ドルのコスト削減になるという。一世帯あたりでは年2400ドルの節約だ。

2月15日に医学雑誌ザ・ランセットに発表されたこの研究はまた、国民皆保険制度に移行すれば、年に約6万8000人の命が救える、としている。

「それでもこの数字はかなり控えめだ。私たちの研究では、現在無保険のアメリカ人の命が救われる分を考慮していないからだ。そこには名目上保険に加入しているが、自己負担金を払えないために治療を受けられなかったり、先延ばしにする人々もカウントしていない」と、イェール大学公衆衛生学部のアリソン・ガルバニは本誌に語った。

研究者らの予想では、国民皆保険の導入によって、アメリカ全体の医療費が年約13%削減されると同時に、低所得世帯への医療アクセスが改善される。

アメリカでは約3700万人が医療保険に加入しておらず、さらに4100万人が適切な医療保険に加入していない。全体で見ると、総人口の約24%がニーズに合った医療保険に加入していない。

高すぎる医療コスト

この研究によれば、「雇用主と加入者による保険料と政府の資金で賄う現在の制度よりも、国民皆保険制度のほうが少ない財政支出で全体のコストをまかなえる」という。

アメリカの一人当たり医療費は世界のどの国より高いことも指摘している。これはサンダースが皆保険制度の議論でよく言っていることだ。

「アメリカの医療費が他の先進国と比べて驚くほど高いことには、注目する価値がある」と、シンクタンク経済政策研究所のジョシュ・ビベンス研究部長は本誌に語った。ビベンスは今回の研究には関与していない。

「この事実をふまえ、他の国々が集中管理体制によって医療関連コストを抑制していることを考えると、これまでのところ、『メディケア・フォー・オール』が適切に運営されるなら、国の医療費を節約できる可能性が最も高いのではないかと思う」と、彼は言う。

サンダース上院議員はこの研究を絶賛し、自分の医療保険改革は「人権としての医療」を保証する最善策だと付け加えた。

「労働者の家計負担を数千ドル減らし、年に何万人もの死を防ぐことになるだろう」と、サンダースは語る。「製薬業界や医療保険業界のCEOは気に入らないかもしれないが、私が大統領になったら、こういう連中の強欲は終わりだ。私たちは国民皆保険を達成する」

<参考記事>サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない
<参考記事>ボストンのリベラルエリートが、サンダースを支持しない理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中