最新記事

感染症

韓国でMERSが拡大した理由──国民の生命より体制維持を優先する「持病」とは

Seoul’s Chronic Problem

2020年2月7日(金)11時45分
前川祐補(本誌記者)

magw150630_MERS.jpg

朴大統領に頭を下げるサムスンソウル病院の宋院長 YONHAP/AFLO

強気な態度を崩さなかったサムスン病院が急転直下、謝罪に応じたわけだが、これを疑問視する声もある。メディア関係者の間では韓国政府が普及を進めている遠隔医療に関して、サムスンソウル病院が何らかの恩恵を受けるとの噂が流れている。謝罪で事態を収束させるため、政府が「恩恵」を取引材料として用意したのではないかと指摘されており、野党もこの問題を国会で追及する構えだ。

財閥に対して厳しい対応が取れなかった朴は、自身の約束をほごにしたことにもなる。

朴は2年前の大統領就任演説で、財閥が独占する経済をより開かれたものにする「経済民主化政策」を主要政策の1つに掲げていた。その実現に向けて、財閥企業の「貯金」である内部留保に課税するなど具体的な政策を打ち出した。だが、その後は遅々として財閥の「不正常さ」をただす動きは見られない。

財閥と政府の癒着だけでなく、もう1つの「持病」も発症した。事態の真相究明を求める行為を、政府がつぶそうとする動きだ。

「情報公開」市長を捜査

MERS感染に関して「情報封鎖」を続けていた政府に業を煮やしたソウル市の朴元淳(パク・ウォンスン)市長は今月4日深夜、記者会見を開いて感染医師の行動を公表した。

中央政府の力が極めて強い韓国にあって、その方針に逆らうのは簡単ではない。案の定、朴市長は衛生当局から強く非難された。

地元メディアは「政府が市長を批判する資格はない」と朴の対応を擁護したが、「医療革新闘争委員会」を名乗る市民団体が先週、「虚偽の事実を流布し国民の不安をあおった」として朴を告発。ソウル中央地検がすぐ捜査に着手したことが明らかになった。

韓国では政府にとって都合の悪い人物や組織が「市民団体」によって圧力を加えられるケースが少なくない。昨年10月、朴大統領の名誉を棄損したとして産経新聞の加藤達也前ソウル支局長を告発したのも「ある市民団体」だった。

国家的な惨事が起きたとき、原因究明や政権批判を韓国政府が封じるのは、「いつかどこかで見た風景」だ。昨年4月の旅客船セウォル号転覆事故で朴政権は、事故の真相究明を求めたデモを禁止し、教員らによる追悼リボンの着用も許さなかった。今回のMERS対応でも同じような対応を繰り返しているのは、朴政権の「持病」の再発にほかならない。

変わろうとしない朴政権に対して、野党は強く反発している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想下回る 賃金伸び鈍化

ワールド

欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中