最新記事

ブレグジット

英EU離脱がもたらす「今後起きること」と「変わらないこと」

2020年2月1日(土)15時09分

英国の欧州連合(EU)離脱は、同国にとって過去何十年かで最大の地政学的な動きだ。写真はロンドンの議会前でEUの旗を振る、EU離脱に反対する人々(2020年 ロイター/Antonio Bronic)

英国の欧州連合(EU)離脱は、同国にとって過去何十年かで最大の地政学的な動きだ。31日2300GMTに正式なブレグジット(英のEU離脱)が実現し、移行期間に入ると、何が変わり、何が変わらないのかをまとめた。

政治権限

英国は名目上だけはEUに加盟し続けるが、金融サービスから欧州産自動車の定義まで、EUの最終的な方針を決める会合で投票権を失う。

EU経済におけるウエートが約15%の英国は、最大の防衛費を拠出し、ロンドンの金融街シティーは国際金融資本市場の中心でもある。それでも英国の経済規模はおよそ2兆7000億ドルと、EU全体の18兆3000億ドルから見ればはるかに小さい。

またEUは、ジョンソン首相が英国をどのような姿にしていくか正確に見極めようとするだろう。つまり英経済とシティーに積極的なてこ入れをして、EUのすぐ外側に新たな競争相手を生み出すのかどうかだ。

市民

英国民とEU市民は今年末まで、相互に生活し、働く権利を維持する。なぜなら双方は現在の関係を当面続ける移行期間の設定に合意しているからだ。

これまで英政府は、推計350万人のEU地域出身在住者に対して、少なくとも今年12月末までに引き続き権利を確保するための登録をするよう呼び掛けている。ジョンソン氏は、ブレグジット後にオーストラリア方式の入国管理制度を導入する意向。これにより、高度な技能を持つ人を受け入れながら、非熟練労働者の流入を禁止できるという。

企業と税関

移行期間があるため、企業にとって規制環境は従来と変わらない。移行期間後は、英国の関税が適用されるのは第三国から北アイルランドに向かう製品に限られる。EU市場に向かうとみなされる製品は、英当局がEUの関税を徴収する。

アイルランド島内には税関は設置されず、手続きは各港湾で行われる。英当局は、北アイルランドでEUの税関ルールを代行して実施する。

貿易

31日のブレグジット後、英国は他国と自由貿易協定(FTA)交渉を開始することができる。英政府にとっては、同国の貿易額のおよそ半分を占めるEUと、米国とが、最優先の協議相手だ。対米交渉では、英国が米国からの報復示唆にもかかわらず一方的に提案しているデジタル課税がネックとなりそうだ。米国は、デジタル課税を導入するなら英国産自動車に報復関税を発動するとけん制している。

金融

移行期間中は、EUの顧客と取引している英国の幅広い金融サービス業はこれまでと同じ環境を享受できる。今年12月末までは英国でも、全てのEUの金融ルールが適用される。英国の銀行や資産運用会社、保険会社は今のところEU域内の投資家に何の制約もなしにアクセスが可能だ。

こうした英金融サービス業の将来のEU市場へのアクセスがどうなるかは、英国とEUが真っ先に話し合う問題の1つで、6月末までに結論を出さなければならない。

英政府は自国の規制体系について、EUに域内と「同等性」があると認定してもらい、金融サービス業がEU市場にアクセスを継続できる道を開きたい考えだ。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中