最新記事

レバノン逃亡

ゴーンの切手まであるレバノンからどうやって被告を取り戻す?

2020年1月9日(木)19時42分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

記者会見で、ゴーン被告はフランスの捜査には協力するといったが、レバノンに捜査員がいけばそうするだろうが、フランスに来るかどうかはわからない。オマーンでのルノー販売会社への支払いやベルサイユでの結婚披露宴や誕生日会の疑惑などについて、予審が始まっており、汚職財務税務犯罪対策中央局(OCLCIFF)が捜査している。オランダの会社についても調べており、当然、この2つの容疑の他にも闇の金の流れが続々明らかになるに相違ない。そうなると仏当局による身柄拘束も考えられる。たしかに、フランスの刑務所にはVIP用の房があり、小菅拘置所よりは住みやすいのだろうが、レバノンの自宅(日産が買ったもの)で65000ユーロ(800万円)のシャンデリアのもとで食事しているゴーン被告には耐えられないだろう。身柄拘束されなくても出国禁止になる公算は大きいから「故郷」レバノンには行けなる。

レバノンを出ればただの疫病神

「赤手配」になっている限り、レバノンから出るとただの疫病神にすぎないから、その場で逮捕され、日本に送られてしまうだろう。

そんなこともあって、8日の記者会見では「小さな牢獄から(レバノンという)大きな牢獄に移っただけではないですか」という質問もあった。

ゴーン被告にむざむざと出国され言いたい放題された日本政府としては、国家の威信をかけてもゴーン氏を取り戻さなければならないところだろう。だが、国際条約違反などといくら叫んでも、レバノン司法当局が動くことはないだろう。

ただし、いま、レバノンでは大きな反政府運動が起きている。ちょうどフランスの黄色いベスト運動のように、割られたショーウインドーに「くたばれ資本主義」の落書きが書かれている。国民の3分の1にあたる220万人が参加しているといわれ、内閣総辞職の事態に陥っている。

レバノンの3人の弁護士が、ゴーン被告がイスラエルに入国したことを国家反逆罪であるとして告発した(レバノンとイスラエルは戦争状態が終わっていない)が、1年前なら考えられなかったことだ。

こういった状況をうまく利用すればひょっとしてということもあるかもしれない。日本政府の外交手腕が試されている。

20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中