最新記事

犯罪

中国から郵送で密輸されるドラッグ、次の標的は日本だ

Narcos China Style

2019年12月18日(水)17時45分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

中国当局は2013年、広東省博社村で蔡東家ら180人余りを逮捕した REUTERS

<中国で密造されたオピオイドや覚醒剤が郵送でアメリカに流入。しかし米中当局の間には捜査協力を阻む壁が>

違法薬物の発送には国際郵便が便利です――誰かが闇社会で、そう宣伝したに違いない。おかげで米郵政公社の検査員は大忙しだ。1年間に押収されるその手の郵便物は、合成オピオイドが約370通、ヘロインが1000通にコカインが2000通ほど、覚醒剤のメタンフェタミンは2500通を超えている。当然のことながら、検査を擦り抜ける郵便物はもっと多いと考えたほうがいいだろう。

とりわけ深刻なのは、鎮痛効果が高く最も致死性が高いとされるフェンタニルの郵送による流入だ。郵政公社検査局のゲーリー・バークスデール局長は今年7月に連邦議会の公聴会で、「郵送による違法薬物の流入を止めること。それが最優先の課題だ」と証言している。

フェンタニルは合成オピオイドの一種。米疾病対策センター(CDC)によると、2016年にフェンタニルの過剰摂取で死亡したアメリカ人は2万8000人を超える。捜査当局の関係者は議会で、違法なフェンタニルやその同類の違法薬物のアメリカへの「主たる供給源」は中国だと証言している。

フェンタニルはモルヒネの50~100倍の効果があり、純度100%なら2ミリグラムで死に至るとされる。米国土安全保障調査部(HSI)国内捜査部門のマシュー・アレンは、2018年10月に議会でこう証言した。フェンタニル1キログラムの仕入れ価格は中国国内ではおよそ3000~5000ドルだが、それをアメリカで売りさばけば150万ドル以上の稼ぎになると。

今年7月には米麻薬取締局(DEA)の北米大陸担当者マシュー・ドナヒューの証言により、中国のフェンタニル製造業者がアメリカ政府の監視をかいくぐるため、いったんメキシコやカナダ、カリブ海諸国に送り、そこから郵便で米国内に発送している実態が明らかになった。中国から直送するより、そのほうが怪しまれないからだ。

HSIのアレンは、中国政府に規制の徹底を求めても無駄だと警告した。今の中国には合法・非合法を合わせて16万以上の薬物製造業者がひしめいているからだ。それでも中国は今年4月、国内でフェンタニル類を危険薬物に指定し、規制対象にすると発表した。大きな一歩だ。今後はDEAと中国側が協力して取り締まりに当たれることになる。

容疑者は中国で逮捕されず

また、違法薬物の製造や密輸にはたいてい犯罪組織が絡んでおり、中国政府は今年、組織犯罪や地方レベルの汚職に対する集中捜査で1000以上の組織と3000人以上のメンバーを摘発したという。

中国の犯罪組織は古くからアメリカに根を下ろしている。例えばサンフランシスコなどでは、1860年代の時点で中国系ギャングがヘロインの密売や人身売買を手掛けていたという。1960年代以降は政府による組織犯罪対策が強化され、いわゆる組織犯罪取締法(RICO)によって、1985~94年だけで15の中国系マフィアが摘発された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中