最新記事

ポピュリズム

ヨーロッパでポピュリズムへの反省が始まった?

A New Hope for Democracy

2019年10月5日(土)15時00分
チャールズ・カプチャン(ジョージタウン大学教授)

議会停止という民主的手続きを無視したジョンソン英首相に民衆も保 守党議員も猛反発した HENRY NICHOLLSー REUTERS

<イギリスとイタリアの変化に見る民主主義の「自己修正」はアメリカに到達するか>

ヨーロッパの政治の振り子が、移民排斥やナショナリズムの熱狂とは反対の方向に振れつつあるのかもしれない。

もちろん、イギリスのEU離脱(ブレグジット)をめぐる迷走は、相変わらずどこに行き着くのか分からない。イタリアで新たに誕生した連立内閣も、いつまで続くのか、あるいは、まともに機能するか分からない。

それでも、イギリスで与党・保守党の一部がボリス・ジョンソン首相に対して反旗を翻したこと、そしてイタリアで右派政党「同盟」(旧「北部同盟」)が権力の座から転落したことは、民主主義社会には過激なポピュリズムから回帰する力があるという希望をもたらしている。

確かに、自由民主主義と多元主義の危機はまだ続いている。

イギリスのジョンソンや、イタリアのマッテオ・サルビニ同盟党首、ドナルド・トランプ米大統領、そしてハンガリーのオルバン・ビクトル首相らポピュリスト政治家は、北米とヨーロッパがいかに衝動的な政治に流されやすいかを明らかにした。イギリスの首相が、EUからの合意なき離脱という破壊的行為を固く決意しているらしいことは、いまだにショッキングな現実だ。

アメリカの大統領が連日のように移民を侮辱し、ハイチとアフリカ諸国を「肥だめ」と呼び、ネオナチのデモに好意的な発言をすることも、これまでなら考えられなかった。イタリアで最大の人気を誇る政治家であるサルビニが、国内における民族浄化ならぬ「移民浄化」を訴えたことも衝撃的だった。

だが、イギリスとイタリアの政治で最近起きていることは、大衆扇動と人種差別をあおる行為にも限度がある(かもしれない)ことを示唆した。

英議会は、合意なき離脱を延期する法案を可決した。さらに保守党から大量の議員が離党した(造反を理由に追放された議員を含む)ため、ジョンソンは議会で多数派の地位を失った。長い目で見れば、こうした反乱は手遅れだったのかもしれない。

しかし選挙で選ばれた議員たちが、自らの政治生命や忠義を危険にさらしてでも国家のために立ち上がったことは、民主主義の自己修正メカニズムが機能しつつあり、リーダーによる民主的手続き無視に待ったをかける動きとして注目に値する。

相変わらずイギリス国内の分断は激しく、政治的な機能不全は続いている。しかし少なくとも現時点では、政治の適正化と常識が、ポピュリストの暴走に勝利を収めつつある。

「サルビニ排除」で一致

イタリアでも、中道主義と歩み寄りの精神が復活しつつあるようだ。8月に同盟と左派政党「五つ星運動」の連立政権が崩壊して以来、混乱が続いていたが、五つ星と民主党の間で連立合意が成立したのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪小売売上高、4月は前月比0.1%増 予想下回る

ワールド

ロシア、国際経済フォーラムにタリバン招請=高官

ワールド

EU、グリーン技術の域内生産強化法を承認 競争力底

ビジネス

印製薬企業、米市場の供給不足背景に売上高改善続く=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 6

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 7

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 8

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 9

    台湾を威嚇する中国になぜかべったり、国民党は共産…

  • 10

    トランプ&米共和党、「捕まえて殺す」流儀への謎の執…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中