最新記事

香港

フィッチが香港を格下げ、見通しをネガティブとした理由

2019年9月9日(月)17時00分
マーシー・クレイター

James Pomfret-REUTERS

<逃亡犯条例改正案は撤回されたがデモ隊の抗議活動に収束の兆しは見られない。政府が置き去りにしてきた民衆の要求がビジネスの場としての香港を揺るがしている>

大手格付け会社フィッチ・レーティングスは9月6日、香港の外貨建て長期債の格付けをAAプラスからAAに引き下げた。今後の見通しもネガティブ(弱含み)だ。現地では大規模な抗議デモが続き、香港経済は景気後退の危機にある(写真は抗議デモを支持する紙を壁一面に張った「レノンウォール」)。

香港の格付け引き下げは、中国返還前の1995年以来。これにより、香港の公的機関と企業は借り入れコストが上昇する。

フィッチは理由をこう述べる。「一国二制度の枠組みは今後も残るが、中国本土との経済・金融・社会政治的結び付きの段階的強化は、中国の統治システムへの統合が引き続き進むことを意味する。長期の制度的・法的リスクは増大する見通しだ」

中国の李克強(リー・コーチアン)首相は同日、ドイツのメルケル首相との会談で一国二制度を堅持すると強調したが、このままでは香港の金融センターとしての地位が弱体化する可能性がある。

民主派の抗議行動は香港当局に対する「国際社会の評価を長期的に傷つけ」、香港のビジネス環境に疑問を投げ掛けたと、フィッチは指摘する。

デモのきっかけは、本土への重犯罪容疑者の引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案だった。香港当局は4日、改正案を撤回したが、デモ側は抗議活動への警察の対応を調査する独立委員会の設置など、まだ満たされていない要求があると主張する。

「見通しをネガティブとしたのは、デモ隊の一部の要求に譲歩しても、住民の間に一定の不満が残る可能性が高いからだ」と、フィッチは言う。「再び社会不安が高まれば、香港の統治、制度、政治的安定、ビジネス環境への評価を傷つけかねない」

民主派は週末も複数の場所に集まり、警察を非難。警察はゴム弾や催涙ガスでデモを鎮圧した。

<2019年9月17日号掲載>

【関連記事】香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター
【関連記事】香港デモ、進化系ゲリラ戦術の内側

20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中