最新記事

IMF

IMF最後の切り札はイケメンすぎるインド中銀元総裁。華麗なる転身なるか

2019年7月8日(月)18時40分
小堀栄之(経済ライター)

15年からは物価が落ち着いたことから、一転して利下げを繰り出すようになる。普通であれば、よほどの緊急事態でもない限り金利の上げ下げは毎月の金融政策会合で発表される。それに対して総裁時代のラジャン氏は何の前触れもなく緊急会合を開き、利下げを発表することがたびたびあった。利下げは0.25ポイントであることがほとんどだったが、「不意打ち」による心理的なインパクトを与えることで、下げ幅以上の効果を狙っていると現地では噂された。突然の発表になると何の準備もない状態で記事を書く羽目になり、なかなか記者泣かせな手法ではあった。ただ、「経済学は人間学」という専門家もいるように、経済とは人間の心理と切り離せないものだ。

就任直後の最も注目が集まるタイミングで物価抑制への決意を見せつけたことや、利下げで金融を緩和する際には「サプライズ」とセットにして大きなインパクトを与えるなど、世界的なエリートでありながら理詰めで攻めるのではなく、市場や関係者の心理面も巧みに突く手法には舌を巻く思いだった。16年はじめにはインドのインフレ率は4~5%ほどに落ち着く。原油安が進行したという幸運もあったが、ラジャン総裁の手腕がインフレ抑制に大きな役割を果たしたという意見は多い。

英中銀の総裁候補にも

国民からの人気が高く「ロックスター」とも呼ばれたラジャン総裁だが、1期目を終えた16年であっさり退任が決まってしまう。経済成長を重視するモディ政権と、金融緩和に消極的なラジャン総裁の意見が対立し、再任が見送られたという見方が一般的だ。ちなみに、後任のウルジット・パテル総裁も政権とそりが合わず、任期途中の18年12月に退任の憂き目に遭った。

数年の雌伏の期間を経てラジャン氏が表舞台に戻る日は来るのか。就任が噂されているのは、IMFの専務理事だけではない。英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の総裁候補としても名が挙がっている。BOEは現職のマーク・カーニー総裁がカナダ人で、外国人として初めて総裁に就任している。ラジャン氏にとっても国籍が問題になることはない。カーニー総裁は20年1月に退任が確実視されており、ラジャン氏と共にIMF専務理事の候補でもある。世界経済の減速が予測されていることに加えて、英国はEU離脱という難題も抱える。難しい局面だからこそ、英国政府は国籍よりも能力を優先する思惑が強いのかもしれない。

ラジャン氏が就くのは、国際金融の「顔」なのか、難局を迎える英国の「通貨の番人」役なのか。どちらにしても、実績と実力、そして「スター性」も申し分ない候補だ。


20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨

ワールド

バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大すべき=

ワールド

OPEC、世界需要予想据え置き 「OPECプラス産

ワールド

米のロシア産ウラン輸入禁止措置、8月11日から開始
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中