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フィリピンで人権活動家が狙われる連続殺害事件 「超法規的殺人」への国連調査と関連?

2019年6月19日(水)17時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

3年間で人権活動家ら208人が殺害

フィリピンではドゥテルテ大統領が政権を掌握した2016年からの3年間で、今回の4人を含めて人権活動家や民主運動家など208人が殺害されていると人権団体は指摘している。

この数字にはドゥテルテ政権が進める麻薬関連犯罪の捜査による被害者は含まれておらず、純粋な殺人事件の被害の数字であるとされ、フィリピン社会で人権擁護活動がいかに厳しい状況に直面しているかが如実に反映された数字となっている。

またドゥテルテ政権が進める麻薬犯罪対策に伴う「超法規的殺人」では警察発表でこれまでに約5300人が死亡しているとしている。しかし、人権団体などによると実際に犠牲となった被害者は少なくともその4倍に達するとみている。

こうした実態を把握するために国連など国際組織は中立的で独立した機関による実態調査を再三再四フィリピン政府に求めているが、ドゥテルテ政権はこれを断固として拒否している。

またオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)が超法規殺人に関する予備調査を始めたところ、フィリピンはこれに反発、2019年3月にICCを正式に脱退している。ただ、ICC側は「加盟時の事案については調査可能」として、国際機関はなお調査を進めようとしており、フィリピン政府と対立している。

そうしたなかでの今回の活動家の相次ぐ殺害事件だけに、麻薬犯罪や国際機関の動きとの関連性の有無を含めて実態解明が望まれており、国連人権委員会は「驚くべき殺人の実態で著しい人権侵害である」として真相解明に乗り出す構えを見せている。

しかし一方のフィリピン政府は「国連の動きは悪意ある非難に基づく偽りと偏見に満ちたものである」(サルバドール・パネロ大統領府報道官)と指摘。一歩も譲らない構えをみせており、真相解明は難しいとの見方が支配的だ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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