最新記事

麻薬組織

世界の闇社会を牛耳る、頭脳派麻薬王を追え!

Lifestyles of the Rich and Malevolent

2019年5月8日(水)18時00分
メアリー・ケイ・シリング

高い技能を持ち、普通の仕事に飽き足らない者が犯罪組織に集まる C.J. BURTONーCORBIS/GETTY IMAGES

<ノンフィクション作家のエレーン・シャノンが語る、世界を混乱に陥れる新手の組織犯罪の脅威>

凶悪犯と麻薬について書かせたら、この人の右に出るライターはまずいない。

ニューズウィークとタイムの元ベテラン記者、エレーン・シャノン。メキシコの麻薬王と腐敗した警察の癒着を暴いた88年刊行の『デスペラードス』で、一躍この分野の第一人者となった。映画監督のマイケル・マンがこの本をドラマ化したNBCのミニシリーズ『ドラッグ・ウォーズ/麻薬戦争』はエミー賞を受賞。続編もエミー賞にノミネートされた。

シャノンの新刊『ルルー狩り(Hunting LeRoux)』(ウィリアム・モロー社)も、マンが映画化する。巨大犯罪組織を率い、サイバー犯罪にも手を染めた新手の凶悪犯ポール・ルルーを追い詰める米麻薬取締局(DEA)の死闘を活写したドキュメンタリーだ。

ローデシア(現ジンバブエ)で生まれた希代の天才大悪党ルルーと彼が築いた犯罪帝国について、本誌メアリー・ケイ・シリングがシャノンに話を聞いた。

***


――ルルーを知ったのは?

ヘロインが戦争とテロの資金源になっている現状を書こうと、アフガニスタンで取材を進めていた。私の知る限りでは、イスラム原理主義勢力タリバンは資金の90%をヘロインで得ている。

そんなとき知り合いの捜査官が今までにないタイプの大物を追っていると話してくれた。それを聞いてすぐさま方針転換し、ルルーについて調べ始めた。

――ルルーは従来の麻薬密売人のイメージとは違う。彼が目指すのはコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルとロシアの武器商人ビクトル・ボウト、それにアマゾンCEOのジェフ・ベゾスだと、あなたは書いている。

そう。でも、それだけじゃない。先を読む目がずば抜けている。その証拠に早い段階でコカインに見切りをつけた。彼が麻薬ビジネスに乗り出した04年には、アメリカではコカインの使用は減り始めていた。一方で処方薬──当時はまだそう呼ばれていなかったが、オピオイド系鎮痛剤の使用は増え始めていた。

ルルーは、アメリカ人が好きな2つのことを組み合わせれば、いくらでも儲かると考えた。その2つとはピルとオンラインショッピング。錠剤型のオピオイド系鎮痛剤の密輸を真っ先に始めたのは彼だ。だいぶたってからブームが彼に追い付いた。

――世界各地の紛争や戦争が生み出した「人材プール」があると、あなたは書いている。カネになるなら犯罪でも殺人でもやる連中がごろごろいる、と。

「傭兵のフェイスブック」という言葉を教えてくれたのは、南アフリカの情報機関の元高官。今はサイバーセキュリティーの仕事をしている人物で、いわゆる「善玉ハッカー」だ。彼によると、戦争中や軍事訓練中に人脈を築いた男たちが警備の仕事にありついているという。ここで言う警備とは傭兵のことだ。

アフガニスタンにいたとき、各国政府や軍隊の特殊任務に就いている人たちに話を聞いたが、これから厄介な事態になると、異口同音に言っていた。高度な技能を持ち、アドレナリンがばんばん出るような仕事をやりたがっている連中がいくらでもいるからだ。彼らは普通の仕事では満足せず、危ない橋を渡りたがる。そういう人間を雇う企業は限られているが、ルルーの組織はその1つだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中