最新記事

アメリカ社会

何が「正義」か見えなくなった2018年のアメリカ

Merriam-Webster Word of the Year: 'Justice'

2018年12月18日(火)16時00分
アレクサンダー・ハツラー

訪英中のトランプ米大統領に抗議するロンドンっ子たち Peter Nicholls-iStock-REUTERS

辞書出版大手メリアム・ウェブスターは、今年の単語として「正義(justice)」を選出した。これは2018年が、ロシアの米大統領選関与疑惑をめぐるロバート・モラー特別検察官の捜査や、「#MeToo」事件の告発など、事実解明が注目を浴び続けたことを受けたものだ。

ウェブスターは声明で、この単語を選んだ理由について以下のように説明している。「人種的正義、社会的正義、経済的正義、刑事司法上の正義──正義は、ここ1年間に全米で交わされた多くの議論の中心だった。」

同社によれば「正義」は、「Merriam-Webster.com」で年間を通して最も検索された単語のひとつで、検索回数は2017年と比べて74%も急増したという。

メリアム・ウェブスターは「正義」に関連した話題の出来事を例として挙げている。その一つが、ロシアが2016年の米大統領選挙に干渉したのではないかという「ロシア疑惑」とその捜査だ。モラー特別検察官が任命されて19カ月、これまでにトランプの元アドバイザー5人を含む33人が起訴されたが、疑惑解明には程遠い。。

12月12日には、ニューヨーク連邦地裁がドナルド・トランプ米大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエンに3年間の実刑判決を下した。罪状には、2016年の大統領選前にトランプの不倫を隠ぺいすべく口止め料を支払ったことも含まれている。判決を受けた際にコーエンは、トランプの「汚い行為」を隠ぺいすることに同意したのはトランプへの「忠誠心」からだったと述べた。トランプは、かつて右腕だったコーエンを「ラット」と呼んで非難した。いったい正義とは何なのか、問いたくなる出来事が多かったのが今年の特徴だという。

性的暴行疑惑もうやむやに

メリアム・ウェブスターはさらに、米連邦最高裁判所判事の指名候補者ブレット・カバノーが、上院指名承認公聴会で過去について深く詮索された点にも触れている。カバノーはトランプにとって2人目の指名候補者だったが、性的暴行疑惑で全米を巻き込む議論に火をつけた。

少なくとも3人の女性が、カバノーからセクハラと性的暴行を受けたと告発し、カバノーの指名承認手続きは難航した。告発者の1人であるクリスティーン・ブレイジー・フォードが証言をした公聴会はテレビ中継され、連邦捜査局(FBI)が調査に乗り出した。しかしカバノーはその後、賛成50反対48と僅差ながら指名承認を得てしまった。

メリアム・ウェブスターの編集者ピーター・ソコロウスキーはAP通信に対し、これらのニュースは「人種や階級を超えた、全体的な文化や社会に結びつく話」なので、その結果として、「正義」が会話で非常に頻繁に使われる単語になったと述べた。

他の「2018年の言葉」として、オックスフォード・ディクショナリーでは「有毒な(toxic)」、Dictionary.comでは「誤った情報(misinformation)」が選ばれている。

(翻訳:ガリレオ)

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中