最新記事

人体

頭骨と脳を結ぶ「秘密のトンネル」が発見される:脳障害時に免疫細胞を送り込む経路

2018年9月4日(火)17時40分
高森郁哉

頭骨と脳を直接結ぶトンネルが発見された Credit: Gregory Wojtkiewicz, Center for Systems Biology, Massachusetts General Hospital

米国の研究チームはこのほど、頭骨と脳を直接結ぶごく小さなトンネルが存在することを発見した。脳卒中などで脳が損傷を受けたときに免疫細胞を迅速に送り込む経路とみられ、これまでそのルートは知られていなかった。

脳障害時に送り込まれる免疫細胞

ハーバード大学医学大学院のマティアス・ナーレンドーフ博士が率いた研究で、研究を助成した米国立衛生研究所(NIH)が発表。神経科学分野の学術誌「Nature Neuroscience」に論文が掲載された。

NIHによると、医学界では従来、腕や脚の骨の骨髄で作られた免疫細胞が血液を介して移動し、損傷した脳細胞に送られると考えられていたという。

マウス体内の「好中球」の移動に注目

研究チームは、免疫細胞のうち、損傷を受けた部位へ早期に到達する「好中球」(白血球の一種)に注目。まずマウスを用いて、脳卒中と心臓発作の2つのケースで、体内中の好中球量の変化を調べた。

脳卒中を起こしたマウスを6時間後に調べたところ、頭骨の骨髄に含まれる好中球は、脛骨の骨髄に含まれる好中球よりも減少していた。頭骨の骨髄からより多くの好中球が脳の損傷部位に送り込まれたと考えられる。

これに対し、心臓発作を起こしたマウスでは、頭骨と脛骨から心臓に送られた好中球の量は同程度だった。心臓の位置は頭骨と脛骨のどちらからも遠い。

massgeneralt-1.jpg

Credit: Gregory Wojtkiewicz, Center for Systems Biology, Massachusetts General Hospital

「未知のトンネル」を発見

研究チームは次に、好中球がどのように破損した脳組織へ到達するのかを注意深く観察。先進的な撮像技術を使い、頭骨の骨髄と脳の内膜を直接結ぶ、ごく小さなトンネルを発見した。

(参考記事)ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中